目の前で終わった出来事に北斗は思わず目を逸らしていた。

沈黙が辺りを支配する。

黒い霧の晴れた校舎の裏は酷く静かだった。



「猛!!」



その沈黙を破るかのように兇が怒鳴る。

怒鳴った相手は猛だった。

何故、と非難の視線が猛に向けられる。

しかし猛は少しだけ肩を竦めてみせると、こう言ってきた。

「仕事だからねぇ。」

仕方が無いでしょ?と言ってきた猛の言葉に兇はぎりっと歯軋りした。

「だからって!」

兇が尚も言葉を続けようとした時、猛が徐にこちらへと歩いてきた。

何をするのかと思わず言葉を飲み込む兇。

猛はそんな弟には目もくれず、真っ直ぐに北斗の方へと向かっていった。

そしてポン、と北斗の肩に手を置くと優しい声で言ってきた。



「北斗ちゃんのせいじゃないよ。」



見ると北斗は泣いていた。

それに気づいた兇は思わず駆け寄る。

「那々瀬さん?」

猛への非難も忘れて心配そうに顔を覗き込む。

そんな二人の青年を見上げながら北斗はぽつりぽつりと話し出した。



「あの人……とっても可哀想な死に方して……信じていた人に裏切られて……それで、それで……」



ぼろぼろと涙を零しながら必死に伝えてくる北斗の言葉に、猛は「うん、うん」と相槌を打ちながら聞いていた。

そしてすべてを話し終えた北斗に、猛は優しい優しい声でこう伝えたのだった。



「よくがんばったね北斗ちゃん。」



その言葉に北斗は顔を上げる。

「私……私、何もしてない……助けてあげられなかった。」

涙でぐしょぐしょの顔が更に歪んだ。

猛はそんな北斗を優しい顔で見下ろしながら諭すように言ってきた。

「でもね……」



”助けてあげられる霊なんて一握りなんだよ”





その言葉に北斗の眼が見開く。

信じられない、といった表情で猛を見上げてくる。

そんな北斗に猛はくすりと笑みを作るとそっとその頭を撫でた。

「僕が相手をする霊はみ〜んなあんなのばっかりだからねぇ、助けられる方が奇跡に近いんだよ。」

そう言って笑ってきた猛の言葉を理解した北斗は更に涙を流した。

「それじゃ、猛さんは……」

「ごめんね、嫌なこと手伝わせちゃって」

ぼろぼろとまた泣き出した北斗の頭を優しく撫でながら猛は謝罪の言葉を紡ぐ。

そんな猛に北斗は何度も首を振った。



そんな二人を兇は静かに見守っていた。

兇は自分も共犯だと声には出さずに北斗へと謝っていた。

猛の仕事がどういうものか知っていた。

あの霊がどういう末路を辿るのかも。

しかし何とかできると思っていた。

猛が手を下す前に自分が何とかできると……。

しかし結果は猛が言った通りになってしまった。

あの悪霊は助けられず、消えてしまった。

自分の力の至らなさに嫌気が差す。

兇が内心で自責の念にかられていると、突然猛が暢気な声で呟いてきた。



「それにしても北斗ちゃんは凄いねぇ。」



にこにこと先程の戦いの時の姿が嘘のように朗らかな笑顔で北斗を見下ろしていた。

「え?」

そんな猛を涙で濡れたままの顔で北斗は見上げてきた。

「だってあの悪霊とコンタクト取れたんでしょう?僕でも出来なかったのに。」

呆ける北斗のおでこを人差し指でつつきながら猛はにこにこと北斗を褒め称える。

「え?え?」

その言葉の意味がわからず慌てる北斗。

「結構素質があるのかも♪」

茶化しながらそう言った猛が、北斗の頬へとキスをした途端



「猛!!」



横から兇の鉄拳が飛んできたのだった。



いつもの調子に戻った三人の頭上には既に朝日が昇り始めていた。



第二章完

第三章へ続く

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