「んっふっふっふ〜〜〜〜〜♪俺から逃げられると思うなよ、兇」
既に誰もいなくなった教室に男の声が響く。
「そういうアンタはここで何してんの・・・」
双眼鏡を覗き込み、楽しそうに笑っていた男の横から突然、女の呆れた声が聞こえてきた。
「うわっ!!」
男は、いきなり聞こえてきた声に驚いたかと思うと、現れた女の姿を見るやいきなり狼狽えだした。
「わ、若菜!?な、なんでお前がいるんだよ!」
「あんたがコソコソ怪しいコトしてるからでしょ〜〜!」
若菜と呼ばれた女は、ギロリと双眼鏡の男を睨みつける。
「い、いやぁ〜〜。初々しいあの二人が気になってさ〜〜。い、いや、俺は邪魔する気は無いぜ!無いけどほら、俺と兇は親友じゃんか、なんかこうあいつの為に何かしてやろうと思ってだな・・・」
「それがこの覗き?変態!」
「なっ!変態とは何だ、変態とは〜!俺がこうやって温かく見守ってやろうと・・・」
「それが大きなお世話だって言うのよ!だいたい鈴宮君と北斗の問題なんだからね!アンタが出しゃばると問題が増えるだけなんだから。解ってるの光一?」
自分の言い訳に間髪入れず突っ込み返す若菜に、光一と呼ばれた男は「うっ」と呻くとそのまま押し黙ってしまった。
「だいたい昨日の遊園地の事だって、あの二人を無理やりくっつけようとするし・・・」
「なっ、あ、あれは良かれと思って・・・」
「良くない!!」
「あれのお陰で、北斗と鈴宮君が噂になってるのよ!昨日の今日だって言うのに、もう何人か北斗のこと調べに来た子もいるんだから。北斗に何かあったらどうしてくれるのよ!」
若菜の言葉にさすがの光一も何も言えなくなってしまった。
遊園地の一件がもう噂になっていたことには光一も驚いた。
さすがと言うかなんと言うか・・・
昨日、クラスの女子達も数人誘って兇を遊園地に連れて行ったのは光一本人だ。
目的は先ほど若菜が言った通り”兇と北斗をくっつける”事が目的だった。
常に女の子からマークされている兇が特定の女の子と二人きりでデート、というのはマズイと思ったので他の女の子達も誘ったのだ。
その中に若菜を入れたのは、その親友である北斗を誘う為でもあった。
カモフラージュもバッチリ♪これで自然にあの二人をくっつけられる!とあの時は心底喜んだのに・・・。
まさかこんなにも早く噂が広まるなんて・・・・大誤算だった。
―――欲張るんじゃなかった・・・。
自分の迂闊さに落胆し盛大に溜息を吐く。
ちょっと、いや結構 ”この機会に他の女の子達とも仲良くなれればイイなぁ〜、自分が!” とか思ってしまったのがいけなかった様だ。
―――ホントすまん。
心の中で兇に謝っておいた。
「まあ、反省しているようだからもう良いけど、でもちゃんとフォローしておいてよね?」
光一の心中を読み取ったのか、若菜が溜息混じりに釘を刺す。
「わ〜かってるよ!ちゃんとやっとくって!」
若菜の言葉に光一は返事をすると、力なく手を振り教室を出て行ってしまった。
「まったく、ホントにわかってるんだか?」
光一の出て行った教室の扉を見つめながら若菜は長い溜息を零す。
「何も起きなければいいんだけど」
既に誰もいなくなった門の向こうを見つめながら、親友の安否を気遣いひとり呟くのだった。
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