「う・・・ん。」

体に重みを感じ息苦しさに寝返りをしようとして、できない事に一気に覚醒する。

ばちっと音が出そうなほど思い切り開いた瞳に写ったのは。

兇―――によく似た端正な顔だった。

「おはよう♪」

目の前の男は北斗に跨る格好で、にこにこと笑顔のまま北斗を見下ろしていた。

ちゅっ

北斗が目を丸くして目の前の男を凝視していると、わざと音を立てておでこにキスをしてきた。

きっちり10秒溜めた後、たまぎる乙女の悲鳴が屋敷中に響いた。

ズドドドドドドドド  スパーーン!!

その直後、装甲車か何かが近づいてくるような音がしたかと思うと、部屋の障子が勢いよく開かれ鬼のような形相の兇がそこに立っていた。

「こんの、クソ兄貴!」

兇は北斗に跨る男の襟首を掴むと乱暴に引き剥がした。

「いてててて、痛いよ兇。」

「朝っぱらから何やってんだ!」

憤慨する兇とは対照的に、男はのんびりとした口調で言いながら兇を見上げていた。

一部始終を見ていた北斗は、二人の男の顔を交互に見比べながら困惑する。

―――に、似てるー!だ、誰?

布団に顔を隠しながら先ほどおでこにキスをしてきた男をまじまじと見つめた。

背は兇よりも頭一つ分ほど高く、すらりとした体つきをしており、兇によく似てはいたがこちらの方が大人びた顔つきをしていた。

―――鈴宮君の数年後って感じ・・・ていうか、え?え?まさか!

兇が先ほど叫んでいた言葉を思い出し、北斗はいきなり狼狽えだした。

―――兄貴って言ってたー!ていうかこの人昨日の・・・。

昨夜の事を思い出し、ぼっと顔を真っ赤にさせると頭から布団をかぶった。

「あれぇ〜、北斗ちゃんどうしたの?」

いきなり布団をかぶり隠れてしまった北斗に気づき男は声をかけてきた。

「お前のせいだろう!謝れ!」

「え〜、朝の挨拶しただけなのに・・・それとも口がよか・・・ぶっ。」

男の言葉を遮るように兇が頭をはたいた。

「調子に乗りすぎだ!ほら行くぞ!」

兇は男の襟首を掴むとズルズルと引き摺りながら部屋を出て行く。

男は「北斗ちゃんまたね〜♪」と暢気に手を振りながら引き摺られていった。



「はじめまして、兇の兄の猛(たける)です。」

身支度を済ませ朝食が出来たと食事の間に来てみれば、早朝北斗の寝込みを襲ってきた男がいきなり目の前に現れたかと思うと、にこにこと、そりゃもうにこにこと、花が咲き零れんばかりの笑顔を向けて自己紹介してきた。

しかも、この男は昨夜既に会っている。

「は、はじめまして。こちらでお世話になっている那々瀬 北斗です。」

北斗は昨夜と今朝の事もあり、まともに顔が見れずに俯きながらぺこりと頭を下げた。

ばりんっ

すると突然、横から豪快な音が聞こえてきた。

音がした方を見ると、兇が不機嫌な顔のまま朝食の沢庵をかじっていた。

「す、鈴宮君?」

「なあに那々瀬さん?」

北斗が恐る恐る声をかけると兇はにっこりと笑顔で返事をしてきたが、その横の猛には強烈な殺気を向けていた。

なんともまあ器用な事だ。

「もう兇君、朝から殺気出さないでよ。せっかくの朝食が台無しじゃないか。」

はははは、と兇の殺気などものともせずに爽やかに猛が笑う。

ばりん  さらさらさら  ずずずずずず〜

猛が笑う度に、兇のご飯を頬張る音が大きくなっていった。

「しょうがないわねぇ〜あの二人は。」

二人のやり取りを遠巻きに見ていた母――清音(きよね)――は「ごめんなさいね、いつもはもうちょっと仲が良いんだけれど。」と北斗に言いながら苦笑していた。

「あ、あは、あははは、は。」

そんな鈴宮家の朝のやり取りを見つめながら北斗は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。



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