目を開けると見慣れた障子が目に入った。
まどろむ意識の中、見慣れた景色に安堵しながらあと10分と布団の中に再度潜り込みながら寝返りをうつ。
ふと、間近に温もりを感じ何だろうとうっすら目を開けた北斗の視界に――すやすやと寝息を立てる猛が見えた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!またぁぁぁぁぁ〜〜〜!?」
爽やかな朝の陽光が照らす室内に乙女の悲鳴が木霊する。
スパーーーン
北斗の悲鳴が辺りに響き渡った後、数秒もしないうちに北斗の部屋の障子が勢い良く開かれた。
そこに立っていたのは、両腕をこれ以上ない位に広げて障子を開き、走って来た体を支えるべく両足を大きく開げてその場に踏み止まる兇がいた。
ここに来るまでの間わずか3秒――驚異的な速さだ。
しかも寝起きなのだろう肌蹴けた浴衣が妙に色っぽい。
そして北斗の布団の中でスヤスヤと子供のように眠る猛を見つけた兇はピクリと眉を上げた。
「んん〜」
そんな兇を知ってか知らずか猛は寝返りをうつと
あろう事か北斗を抱き寄せ頬擦りをしながらまた夢の中へと落ちて――
「行かすわきゃねぇ〜だろっ!」
ごいん
鈍い音が響いた。
「いったぁ〜〜」
盛大に頭部を殴られた猛は何事かと跳ね起きる。
「痛っ!?何々?あ、北斗ちゃんおはよう♪てか、痛いよすっごく何が起きたの?」
頭を抱えながらも、その横に北斗が居るのを見つけると爽やかに挨拶をしながら痛みに悶える猛がいた。
そんな猛を見下ろしながら兇はふんと鼻を鳴らす。
「あ、兇君おはよ〜。いつも早いねぇ〜。」
あははと笑い声さえ聞こえてきそうなほど暢気に挨拶をする猛に悪びれた様子は無い。
ビキッ
その瞬間兇の眉間に青筋ができた。
「お〜ま〜え〜は〜〜」
兇の顔に影が落ちる。
わなわなと肩を震わせると、身も凍えそうな低い声を出しながらギロリと猛を見下ろした。
――あ、やばっ・・・
猛が身の危険を感じた時には時既に遅く。
ピシャーンと雷が落ちるが如く兇の怒りが猛に直撃した。
もくもくもくもく
今日の朝食の風景は実に静かだった。
毎度の事ながら――いや正確には兇が睨みをきかせていたので最近は無かったのだが――猛の夜這い(?)のせいもあって気まずい雰囲気が流れていた。
夜這いは未遂で終わったのだが、いつから北斗の布団に潜り込んでいたのかは不明だった。
猛もそこは意地なのか頑なとして口を割らない。
それが面白くない兇は食事の間、始終隣の猛に絶対零度の殺気を放っていた。
気を抜くと失神してしまいそうな程の殺気に、猛はあはははは〜と乾いた笑顔を張り付けながら喉を通りそうも無い朝食を口に運んでいた。
その頭部には2箇所にコブができている。
その相変わらずな朝の光景に北斗はくすりと笑みを零した。
「どうしたの?」
それを目敏く見つけた猛が北斗に声をかける。
隣で兇が忌々しそうに――北斗には聴こえないように――ちっと舌打ちをしていた。
「え、うん。やっと終わったんだなぁって。」
そう言いながら北斗は微笑んだ。
北斗の言わんとしている事を悟った兇は
「うん、もう大丈夫だよ。あの子も無事帰れたみたいだから。」
だから安心して。
蕩ける様な微笑と共に兇は優しい声音で肯定する。
うん、と北斗は頬を薄っすらと染めながら頷いた。
朝の楽しいひと時。
兇と猛は気づかなかった。
この目の前の少女が重大な決断をしていたことを。
第1章完
第2章へつづく
≪back NOVEL TOP 2章へ続く≫