「いや〜凄かったね〜彼女。」
薄暗い道を家路へと歩いていた猛は、目の前の少女を見下ろしながら感嘆の声を上げた。
猛と兇はあの後、少女の霊を無事黄泉へと送り出し、緊張と疲れで眠ってしまった北斗を連れて校舎を後にした。
家路へと帰るその道のりの先は既に闇は薄まり東の空が白んできていた。
「あの子を”黄泉送り”できたのも彼女のおかげだね。」
兇の背中の上ですやすやと幸せそうに眠る少女を覗き込みながら猛は呟く。
「そうだな。」
ぶっきらぼうに、でもどこか優しい表情で兇は頷いた。
「ん〜それにしても、北斗ちゃんの寝顔は可愛いなぁ〜。」
「食べちゃいたいくらいだよ」と、にへら〜と蕩けた笑顔で北斗の寝顔を見つめながら猛は器用に兇の隣を歩く。
すると、すいっと北斗の寝顔が猛から離れた。
「やらんぞ。」
兇は猛からわざと離れると、半目で睨みつける。
ケチと言いながら猛はつまらなさそうに口を尖らせた。
「僕にも分けてよ!こ〜んなに可愛いんだからさ〜。」
不貞腐れていたのも束の間、猛は負けじとばかりに北斗へ顔を近づける。
「こら、やめろ!起きちゃうだろ!」
「え〜だってさ、今回の功労者なんだからもっとこう労うとか。あ、お姫様抱っこがいい!うんうん、女の子はお姫様抱っこに憧れるって言うしね〜。」
「家までお姫様抱っこだ!」と一人で納得した猛は実行に移そうと兇の背中に手を伸ばした。
「ちょっ!お前マジ起きるからやめろ!!」
「いいじゃんいいじゃん♪ちょっと位僕にも触らせてよ〜。」
二人の男が一人の女の子を巡って取り合う声が、静まり返った街中に響き渡る。
近所迷惑に近いその攻防戦は家に辿り着くまで繰り広げられていた。
そうとは知らず今回の功労者は、兇の背中で幸せそうに微笑みながらすやすやと眠っていた。
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