魅由樹は歓喜していた。

目の前には待ち望んでいた彼が居たから。

「て、ててて手・・・紙。」

魅由樹は呂律の回らない舌で必死に言葉を紡ぐ。

だらりと垂れ下がった腕を顔の前に持ち上げて、持っていた紙切れを見せてきた。

「見てくれたんだ、それ。」

掲げられたその紙切れを見ながら兇は嬉しそうに微笑む。

「き、きキキキ・・・・来タ。」

魅由樹はさらに引き攣る舌を動かしてそう言ってきた。

「うん、僕はここにいるよ。」

兇はそう言うとゆっくりと手を差し出す。

それに導かれるように魅由樹は拙い足取りでゆっくりゆっくりと兇の元へと近づいて行った。

そして、その冷たい指を伸ばして兇の頬に触れる。

その瞬間、魅由樹は嬉しそうにぎこちない笑顔を作った。

「兇・・・サ・・マ」

恍惚とした表情で兇の名を呼ぶ。

その姿に北斗は何故か視線を逸らしてしまった。



なんか・・・・ヤダ。



唇を噛み締めて俯く。

しかし、それを猛の声が呼び止めた。

「北斗ちゃん、ちゃんと見てやって。」

「え?」

見上げると猛は真剣な瞳でこちらを見ていた。

「兇は君の為にやってるんだから。それに、何かあったら行くよ?」

いいね?と聞いてくる猛に北斗は頷いた。

そして兇と魅由樹の遣り取りを見届けるために視線を戻した。



「兇サマ・・・・」

「高円寺さん」

うっとりと己を見上げてくる変わり果てた魅由樹に、兇は静かに声をかけた。

その声に見由樹はキロリ、と視線を動かす。

魅由樹がこちらを見た事を確認した兇はゆっくりとこう聞いてきた。



「君は何を望むの?」





その言葉に魅由樹は目を瞠る。

そしてじっと兇を見つめた。

「わ、私ワ・・・・欲シ、イ」

たどたどしい口調で魅由樹は話しはじめた。

その様子を兇はじっと聞く。

離れた場所から北斗と猛も聞いていた。



「欲しい・・・ホシイ・・・・貴方・・・ガ」



「何故?」

魅由樹の言葉に兇はわざとらしく首を傾げた。

その言葉に一瞬魅由樹は押し黙る。

そして何かを考える素振りをした後こう告げてきた。



「淋シイ・・・カラ」



「何故淋しいの?」

兇は更に質問を繰り返す。

「ヒトリ・・・イヤ」

「一人?」

兇がそう聞き返した時――



「ダカラ・・・お前モ、一緒・・・・死ヌ」



無表情な顔で魅由樹がそう告げたかと思った瞬間、青白い右腕が振り上げられた。

ぎらりと光る長い爪。



「兇君!!」



刃物のようなその光に、離れて見守っていた北斗が声を上げた。

「北斗ちゃん下がって!」

猛が北斗を庇うように前に出る。

その瞬間、振り下ろされる腕。



ザシュッ



「イヤーーーーーーーー!!」



北斗の悲痛な叫び声が辺りに響き渡った。

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