ざぁぁぁぁぁぁぁ
木々が風に煽られてざわめく。
浮かんだ月は既に空高く昇り、その細い姿を夜の闇に嵌め込んでいた。
薄暗い月明かりの下。
学校の体育館倉庫の裏では激しい攻防戦が繰り広げられていた。
「凄い・・・・・・」
北斗は目の前の光景に驚きの声を上げる
目の前にいる猛は凄まじい霊力を放ち目の前の敵を翻弄していた。
いつもの飄々とした穏やかな姿とは打って変わって荒々しいその姿に、北斗は食い入る様にその闘いに魅入っていた。
異形の姿に変貌した高円寺魅由樹の繰り出す爪の攻撃を猛はひらりひらりと身軽にかわし。
攻撃を交わしたかと思ったら敵の隙をついて反撃。
猛の力で無数に散らばった数珠の珠が魅由樹の体を攻撃し的確に相手の体力をそぎ落としていった。
「早くしないと」
無駄の無いその動きに北斗は感心しながらその戦いを見守っていると、兇の焦りの混じった声が聞こえて来た。
「え?」
その声に北斗は思わず振り返る。
そして、兇の表情を見て目を丸くした。
優位に立つ兄の闘う姿を何故か兇は不安そうな顔で見ていたからだ。
「す、鈴宮君?」
何事かと北斗が兇の顔を覗き込む。
「猛は俺と違って浄霊専門なんだ」
すると、ぽつりと兇が呟いてきた。
その言葉に北斗はまたしても目を丸くする。
浄霊――悪霊の存在自体を消滅させること。
以前、兇から教えてもらった言葉が脳裏に浮かんだ。
「高円寺さんは今完全に悪霊に取り込まれている。」
無言で見つめてくる北斗に肯定するように兇が補足してきた。
その言葉に北斗は思わず息を飲む。
「そ、それって……」
恐る恐る聞いてきた北斗に、兇は静かに頷いた。
それを見て北斗は愕然とした。
悪霊に体を乗っ取られている魅由樹は、ほとんど同化しているも同然。
――もし……もしそんな状態で浄霊なんかしたら。
「早くしないと高円寺さんが危ない!」
北斗の考えをまるで読み取ったかのように兇がそう告げてきた。
その言葉に北斗も頷く。
そして――
ゆっくりと兇は立ち上がった。
だらりと下がった右腕。
傷口はズキズキと痛み。
止血した場所から大量に血が滲み掌を伝っていく。
満身創痍。
兇の体はボロボロだった。
数日前に受けた傷もまだ癒えてはいない。
右腕に怪我を負った時、運悪く背中の傷も開いてしまったらしい。
背中が燃える様に熱かった。
猛烈な痛みと貧血でくらりと視界が霞む。
それでも目の前の光景に、まだ自分は倒れてはいけないと足に力を込めて耐えた。
「那々瀬さんは離れていて。」
己の肩を支えてくれていた北斗に兇はそう言うと、庇うように前に出た。
「何かあったらこれをあの悪霊に向かって投げるんだ。」
そう言って北斗の手にそれを持たせると、兇は高円寺魅由樹の元へと走って行ってしまった。
「兇君!!」
北斗は手の中の小さなそれを握り締めながら心の中で願った。
どうかどうか、これ以上誰も傷つきませんように、と――
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