「高円寺さん!!」
ようやく魅由樹の元へと辿り着いた兇が必死の声で呼びかけてきた。
「う……兇……様?」
「高円寺さん……良かった。」
薄っすらと瞼を開けて反応した魅由樹に兇はほっと安堵する。
「わたくし、どうして?」
「大丈夫、高円寺さんは休んでて。」
虚ろな瞳で呟く魅由樹に兇は優しく頷くとそっと額に手をかざす。
その途端、魅由樹は眠るように意識を手放した。
力の抜けた魅由樹の体をそっと地面に横たえると、兇は背後に視線を遣る。
そこには白衣のポケットに手を入れ残念そうに肩を竦める猛が居た。
「あ〜あ、もう少しだったのに。」
「猛!」
怒気を孕んだ兇の声に猛は軽く肩を竦める。
「な〜んてね、でも僕のお陰で悪霊離れたじゃない?」
悪ぶれる様子も無くそう言ってにっと口元に笑みを作る猛に、兇は溜息を吐いて見せた。
「お前は……」
「おっと、兇君まえ、前!」
眉間に皺を寄せ何か言おうとした兇に向かって、猛はにこりと笑顔で背後を指差す。
そんな猛に兇は嘆息しながら示された場所へと視線を向けた。
そこには――
憎悪に顔を歪めた悪霊の姿があった。
緩やかなウエーブのかかった茶色の髪を逆立て。
形の良い細い眉を釣り上げ。
大きな瞳をこれでもかというほど見開いて兇達を睨んでいた。
生前身に付けていたのであろう、白を貴重としたシフォン素材のフリルのワンピースが、その怒りの念で炎の様にちりちりと揺らめいていた。
ナンデ
ドウシテ
邪魔ヲスル?
ゆらゆらと陽炎のように揺らめきながら、女は憎悪の言葉を兇達に向かって放つ。
「おや?結構可愛い子だね〜。」
「猛!」
びりびりと突き刺さるような憎悪の念に猛は臆する様子もなくおどけてみせた。
そんな猛に非難の声を上げながら兇は目の前の悪霊に向き直ると
「貴女は何故こんな事をするのですか?」
兇はできるだけ相手を刺激しないように優しく聞いた。
その言葉に、怒りに顔を歪ませていた悪霊がほんの少しだけ目を瞠った。
『ナンデ……ナゼッテ、ソレハ……』
兇の質問に女は俯く。
そしてぽつりぽつりと呟いていた女は一旦言葉を切ると、ゆっくりと顔を上げ
そして――
『憎いから』
低い声でそう呟いた。
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