表情には影が落ち。
憎悪に満ちた瞳は闇色に染まり、その中心に仄暗い紅い光が灯る。
柔らかいウエーブの明るい色の髪は、ざわざわと蠢いたかと思った瞬間、真っ黒に染まり。
着ていたシフォンのワンピースも白から黒へとがらりと色を変えていった。
爛々と光る瞳。
真っ黒な衣装。
黒い黒い深い闇の色。
がらりと姿を変えた悪霊は、取り憑かれた魅由樹の姿に酷似していた。
目の前で変わっていく悪霊の姿に北斗が驚いていると、突然首に圧迫感を感じた。
驚いて見下ろすと、悪霊の黒い腕が己の首の方へと伸びているのが見えた。
「う……」
気づいた瞬間、さらに強い圧迫が北斗の首を襲った。
掠れた悲鳴が喉から漏れる。
北斗は堪らず悪霊の腕をつかんでもがいた。
しかし、悪霊の拘束の力はそんな事では怯まず、さらに北斗の喉を締め上げてきた。
ぎりぎりと力が指に込められていく。
持ち上げられる体。
悪霊の片手が更に北斗の首を締め上げる。
「うぅ……」
北斗の喉奥から苦しそうな声がまた漏れた。
じりじりと、いたぶるようにゆっくりと力を込めながら悪霊は更にこう言ってきた。
『あの人の隣に居るのは……』
わたくしよ!!
そう悪霊が叫んだ瞬間。
眩い光が体を貫いた。
暗黒の壁が立ち塞がる体育館倉庫の裏。
目の前の壁に向かって猛の力が収束していっていた。
手の平に集まった数十個の鈴達は一つに塊り、眩い光を放ち出す。
膨れ上がるその光。
光は大きくなりながら細く長く伸びていく。
猛の手の平に納まり切らないほど巨大な光の塊りとなったそれは、一本の槍へと変化した。
神々しく光を放つ黄金の槍。
猛はその槍を手に持つと、鋭い切っ先を目の前の黒い壁へと放った。
高速で壁に向かっていった槍はぶつかる寸前、数百もの小さな槍へと分かれると黒い壁に大きな穴を開けながら中へと飛んで行った。
「行くよ兇。」
猛は飛んで行った槍の方角を見ながら背後の弟へそう言うと、自身もその黒い壁の中へと入っていく。
小さくなっていく兄の背を見ながら兇は小さく吐息を吐くと、その後を追って中へと入っていった。
何が起こったのかわからなかった。
突然襲った腹部の痛み。
込み上げてきた何かに咳き込むと、口から鮮血が飛び散った。
腹部を押さえると、硬い何かが手に触れた。
続いてぬるりとした感触。
見下ろすと、己の腹に光を放つ棒の様なものが突き刺さっていた。
皮膚を破り肉を貫いたそれには、己の体から流れ出た血がぽたぽたと伝って落ちていっていた。
最初何が起きたのかわからなかった。
目の前の女を貫こうとした瞬間、自身が貫かれていた。
ぎ
ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ
辺りに絶叫が木霊する。
体を貫かれた悪霊が苦悶の表情を浮かべて叫んでいた。
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