不安そうな子供達の集団に混じって不思議そうにこちらを見ている男の子がいた。

10歳にも満たないであろうその小さな少年は猛と目が合うとこちらに近づいて来た。



「お兄ちゃん達は誰?」



小首を傾げて聞いてくる姿は愛らしい。

幽霊か?と疑いたくなるような程生き生きとした少年に猛は臆する事無く声をかけた。



「君はいつからここにいるの?」



猛の質問に少年が首を傾げる。



「僕?ええ〜っと僕はず〜っとここにいるよ。」



少年の言葉に猛は「そう」とだけ言うと鈴の数珠を嵌めた方の手を少年へとかざしはじめた。



「猛!」



強引に事を進めようとする猛に兇が慌てて止めに入る。



「猛さん待ってください!」



北斗も同時に気づき少年を抱えて庇う様にすると猛を見上げた。



「そこをどいて北斗ちゃん。まだ気づいていない今がチャンスなんだけど・・・」



止めに入った二人に猛はやれやれと嘆息すると手を下ろした。



「この子は自分がやっている事にまだ気づいていないけど、これはもうれっきとした悪霊の行為なんだよ?」



「手遅れになる前に除霊しないと。」そう言って面倒そうに肩を竦める猛に北斗が堪らず声をあげた。



「だからこそ、この子にそんなことしちゃ駄目だと思います!」



「北斗ちゃん。」



必死になって言う北斗に猛は困ったように眉根を下げる。



「おねえちゃん?」



そんな二人のやり取りを見守っていた少年がふいに北斗に声をかけてきた。



「だ、大丈夫だからね。」



北斗は慌ててしゃがみ込むと少年を安心させようと微笑みかける。



「おねえちゃん、見て!こうた君が来てくれたんだよ!」



心配する北斗を他所に少年は瞳を輝かせながらそう言ってきたのだった。



「え?」



少年の言葉に目を瞠る北斗。

にこにこと笑顔を見せる少年は「ほら!」と言いながら一人の少年を指差す。

見ると神隠しに遭った子供達のうちの一人を少年は指差していた。

少年は北斗から離れると指差した男の子の方へ駆けて行ってしまった。



「こうた君ずっと待ってたんだよ、どうして遊びに来てくれなかったの?」



嬉しそうに言う少年。

しかし、こうた君と呼ばれた男の子は目をまん丸にして不思議そうに少年を見ていた。



「え?僕こうたって名前じゃないよ。」



男の子はそう言って後退る。



「何言ってるのこうた君?ほら一緒に遊ぼうよ。」



後退る男の子に少年はそう言うと手を差し伸べてきた。

その手に躊躇う男の子。

少年達のやり取りを見ていた北斗が慌てて助け舟を出した。



「そ、そうだ!かくれんぼしようよ!!」



北斗はぽんと手を打つと二人の少年に向かってそう言ってきた。



「「かくれんぼ?」」



二人の少年の声が重なる。



「うん!やろうやろうかくれんぼ♪」



いち早く言葉の意味を理解した幽霊の方の少年が顔をぱあっっと輝かせながら嬉しそうに頷く。

そして、「こうた君も一緒にやろうよ。」と幽霊の少年は隣の少年を誘い始めた。

こうた君と呼ばれた男の子は少年の誘いに困ったような顔をしながら北斗を見上げる。

その様子を見て北斗はすかさずこう続けた。



「やろうやろう!ずっとここにいてお姉ちゃん飽きちゃった!ね、君も一緒に遊んでくれる?」



男の子を安心させるようになるべく優しくにっこり微笑みながそう付け加える。

すると、男の子は少し躊躇いがちに「うん。」と頷いてくれたのだった。

北斗はまたにっこり笑うと少年に「ありがとう」と言いながら、今度は大きな声を出して周りの子供達を誘い始めた。

それを見ていた猛はお堂の外へと子供達を連れ出そうとしていた北斗を呼び止めてきた。



「北斗ちゃん一体何を?」



北斗の意図がわからないといった顔をしながら猛は聞いてくる。

そんな猛に北斗は



「猛さん、ここは私に任せてもらえませんか?お願いします。もしそれで駄目なら猛さんの好きなようにしてください。」



北斗はそう言いながら猛に頭を下げた。

北斗の言葉に猛は少しの間考え込む。

ややあって猛は「少しだけだよ。」と言って了承してくれた。

それを見た北斗は嬉しそうに笑顔になると「ありがとうございます。」と猛にまた頭を下げた。

猛は深々と頭を下げる北斗に「やれやれ君には適わないなぁ〜。」と呟きながら肩を竦めて見せると



「で、僕達は何をすればいいんだい?」



と言ってきた。

いつもの優しい笑顔に戻った猛に北斗は更に目を輝かせながらこう言ってきた――



「はい!一緒にかくれんぼしてください!!」



と――



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