青白い光の中を入るとすぐ外に出られた。

兇と猛は目の前の光景に、やはりあの場所は神隠しの境い目だったのだと確信する。



二人は深い林の中にいた。



先程までいた交差点にも林はあったがこんなに広くは無かった。

ぐるりと周りを囲む木々の群れの奥は深く、高くそびえた木々は日の光を遮断して辺りを薄暗くしていた。

あの交差点にあった林はもっと木が少なくてもっと明るかったはず。

ここがまったくの別空間である事を認識しながら兇達は注意深く辺りを見渡した。

すると自分達が立つ目の前に深緑色に濁った大きな池があった。

更に見渡すとその奥に小さなお堂があるのが見えた。



「あそこを見てみよう。」



猛の言葉に兇は頷くと急いで近くに行ってみた。

近くに行くと結構大きなお堂だったことに気づく。

人が数人入れる程のそのお堂は古びて所々が朽ちかけていた。

木でできた階段を登り入り口の戸の前に立つ。

ふと、その戸の内側から微かに人の声が聞こえてきた。

二人はお互い頷き合うと一気に戸を開いた。



「那々瀬さん!」



「北斗ちゃん!!」



「キャッ」



二人の声に悲鳴のような小さな声が混じった。

その聞き覚えのある声に二人は思わず中へと急いで入って行く。

開け放たれた戸の向う、薄っすらと明るくなったそのお堂の中で捜し求めていた人物を見つけた。



「二人ともどうしてここへ?」



いきなり現れた兄弟に北斗は驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた。



「北斗ちゃん怪我は!?」



北斗の元へ辿り着いた猛はそう言うや否や、驚く北斗の腕や足を掴むと真剣な顔で異常が無いか確かめ始めた。



「た、猛さん!ちょ・・・きゃあ!な、なにを!?」



間髪居れずに体の隅々を診察し始めた猛に北斗は顔を真っ赤にさせて抗議する。



「はっ!ここはっ!?」



そう言って猛が北斗のスカートへと手を伸ばした瞬間――



ごいん



久々に聞く懐かしい音が響いてきた。

ぷしゅう〜と音を立てて猛がその場に蹲る。

その後ろでは米神に青筋を浮かべた兇が立っていた。



「この非常時に!いいかげんにしろ!!」



相変わらずなそのやり取りに恥ずかしさで半泣き状態だった北斗は何故かほっとする。

怒りに拳を震わせていた兇も我に返ると北斗の元へ駆け寄ってきた。



「那々瀬さん大丈夫?」



そう言いながら北斗のすぐ横で片膝をついて顔を窺う。

先程のセクハラ兄とは違い自分を気遣うその真剣な眼差しに北斗の緊張が一気に解れた。



「す、鈴宮君・・・・」



北斗の瞳がみるみるうちに潤んでいく。

「心細かったよー!!」と声を上げながら北斗は兇の胸へと縋りついた。

そんな北斗を兇は優しく包み込む。



「良かった無事で・・・・」



顎にかかる北斗の柔らかい髪の感触を感じながら兇は安堵の溜息を漏らした。

しばらくの間二人がそうしていると、横から「オホン」と咳払いが聞こえてきた。



「お楽しみの所悪いんだけど二人共、今の状況わかってる?」



呆れ声でそう言ってきたのはいつの間にか復活した猛であった。

猛の言葉に二人ははた、と気づき慌てて離れる。

顔を赤くさせながら辺りを見回すと無数の瞳がこちらを見ていた。



「そ、そ、そ、そういえばそうだった。」



現状をいち早く理解した北斗が震える声で呟いた。

北斗の言葉に兇はようやく辺りを見渡した。

そこには――



数人の子供達――が抱き合う二人を好奇の目で見つめていたのだった。



「な、な、な、那々瀬さん、こ、この子達は!?」



ようやく己のしでかした恥ずかしい行動に気づいた兇は震える声で北斗を振り返る。



「え、ええ〜っと・・・・」



お堂の中で出会った子供達のことを北斗は何と答えてよいか判らず首を傾げる。

そこへ救いの一言が降ってきた。



「ああ、神隠しに遭った子供達だね・・・たぶん。」



のほほ〜んと言ってきたのは先程絶妙なつっこみを見せた猛であった。

その飄々たる物言いに兇はジト目になる。

そんな弟の冷たい視線を浴びながら猛は北斗へと向き直った。

「そうだ北斗ちゃん。ここに男の子いなかった?」

猛の言葉に北斗は首を傾げた。



「えっと・・・ここにたくさんいます・・・けど?」



男の子ならここにたくさんいる――

猛の言葉の意味を上手く理解できず北斗が自信なさそうに言うと、猛は「ああ、違う違う」と首を振った。



「その子達じゃなくて、ここにずっといる子、北斗ちゃんは会わなかった?」



猛の言葉に北斗は「あっ」と声をあげる。

思い当たる節がある北斗に猛は詰め寄った。



「その子は今何処に?」



「えっと・・・そこに、います・・・」



「へ?」



北斗の言葉に猛は目を丸くする。

次いで北斗が指差した方を見ると



――そこにいた



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