ふっ、と覚醒する。

ここはどこだろうと思い目の前の景色を巡視すると薄暗い空間に木の天井が見えた。

微かにかび臭いにおいが鼻を刺激し知らず眉間に皺を寄せる。

おもむろに起き上がると背筋が冷やりとした。

冷たい背中に、自分が汗を掻いていたのだとぼんやりと認識する。

段々と頭が覚醒していくと夢を見ていた事を思い出した。



――どんな夢だったっけ?



断片的にしか思い出せない夢に、北斗は気持ち悪さを覚える。



――なんだかすごく恐い夢だったような・・・・。



覚えているのは凄く不安だったという感覚だけ。

胸の上に重たい石を乗せられたような不快感に北斗は眉間に皺を寄せる。

思い出せない夢にイライラする気持ちを振り払うかのように北斗は顔を上げた。



――ああ、そういえばそうだったっけ・・・・。



上げた視界に入ってきたものを見て北斗は嘆息する。

解析不能なこの現実に北斗は大きな溜息を零すとゆっくりと辺りを見回すのだった。

北斗の視界の先には――小さな子供達が床に座り込んで項垂れていた。







外の池であの男の子に会った後、一人ぼっちだと言っていた男の子はなぜか”皆を呼んでくる”と言ってこのお堂の中へと戻っていった。

不思議に思って男の子の後を追いお堂の中へと入ると、いなかったはずの子供達がいた。

あの少年にどういう事かと聞こうとした時には既に少年の姿は忽然と消えていて。

しかもいつの間にかお堂の扉が開かなくなっていたのだった。

この場所に小さな子供達と一緒に取り残された北斗はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

そして先ほど目覚めて今に至るというわけであった。

北斗はゆっくりと子供達を見ていった。

ある者は顔を伏せたまま体育座りをし、またある者はぺたんと床に座り込んでしくしくと泣いていた。

みな様々な格好でその場に蹲っているのだが、そこにいる全員からは共通して不安や恐怖といった感情が見て取れた。

北斗はそんな子供達を見渡しながら小さく嘆息する。



――どうすればいいんだろう・・・・。



途方に暮れる北斗。



「あ、あの・・・・。」



意を決して声をかけてみたが、北斗の声を聞いた途端大袈裟なまでにびくりと肩を震わせた子供達に北斗は慌てて自分の口を押さえる。

過剰な反応を見せる子供達に北斗は口を閉ざすしかなかった。



――どどどどどうしよう、本当に!!



冷や汗をだらだら流しながら困り果てる北斗。

この状況をなんとか打破しようと思うのだが、いかんせん小さいお子様の扱いは良くわからない。

薄暗い小さなお堂の中、どこをどう見回してみても自分と同じ年頃の子はいなかった。

とすると、この状況をなんとかしなければいけないのは自分なわけで・・・・。

ここに兇や猛がいてくれれば・・・・いやこの際知らない誰かでもいい、自分と同じ年頃の子がいればなんとかなったのかもしれないのだが。

頭を抱えて悩む北斗の耳にキィ〜と扉が開く音が聞こえてきた。

反射的に振り返る。

そこには――――



あの男の子が立っていた。











「ここかい?」



「ああ」



日も暮れ始めた夕刻。

兇と猛はあの交差点へと来ていた。

猛は弟の返事を聞きながらゆっくりと交差点を巡視する。

オレンジ色に照らし出されたそこは一見どこにでもある普通の交差点に見えた。

辺りは住宅地。

夕飯時のこの時間、人の通りもまばらだ。

家路に急ぐサラリーマンや学生の姿がちらほらと見える。

住宅街の方からは、台所で奥様方が夕食の支度をしているのだろう、どこからともなく美味しそうな匂いが漂ってきていた。

よくある光景に猛は少しばかりの違和感を覚える。



「ふう〜ん、地場が不安定になってるねぇ〜。」



あるべき物があったはずの場所を見つめながら猛がぽつりと呟く。

猛の視線の先には無くなった道祖神の跡があった。

ごっそり取り除かれたそこは、まだ最近のものなのか草の一部が土が剥き出しになっていた。



「あれは!?」



すぐ隣から聞こえてきた声に猛は振り返る。

見ると兇がある場所を凝視していた。

猛もそれにならって兇の視線の先を追う。

そこには――



林と交差点の境目に青白く光るものがあった。



「兇あそこだ!」

「ああ」



猛と兇は間髪入れずに走り出す。



――夕闇迫る逢魔が時――



二人の青年は青白い光の中へと吸い込まれていく。

その光もまた二人の姿を飲み込むと同時にふっと消えてしまうのであった。



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