真っ暗な空間。
――ここは?
北斗は暗い闇の中で首をかしげていると、ふと目の前がぼんやりと明るくなった。
スポットライトで照らされたように丸くぼやけた輪郭のそこは、淡いオレンジ色に照らし出されていた。
ポーーン
ポーーン
明るくなったその場所から何かが弾むような音が聞こえてきた。
――ボールだ。
その光の中に現れたのは柔らかそうなピンクのゴムボールだった。
バレーボール程の大きさのそのボールはポーンポーンと弾んでいくと、見えない壁があるのかある場所で弾き返されると来た道を戻っていく。
ボールが戻った先には小さな女の子がいた。
――あれは?
小さな女の子に何故か懐かしさを感じた。
その小さな女の子は壁にボールを当てて遊んでいるようだった。
女の子は何度も何度もボールを壁に当ててはまた投げるを繰り返している。
その少女の背後から突然ぬっと大きな影が現れた。
――!!!
北斗の体に緊張が走る。
なんだか良くわからないが嫌な予感だけが北斗の胸に広がっていく。
その大きな影は暫くの間、ボールに夢中になる少女を見ていた。
じっと見つめる影。
――危ない!逃げて!
北斗は知らぬうちに少女に向かって叫んでいた。
しかし少女には北斗の声が聞こえていないのか振り返る気配はない。
少女がまたボールを壁に向かって投げようとしたその時――
がばり
それは一瞬の出来事だった。
大きな影はその大きな手で少女の口を塞ぐと、軽々と抱きかかえてどこかへと連れ去ってしまったのだった。
とんとん、と主人をなくしたボールが虚しくその場に転がっていく。
次の瞬間どす黒い液体が目の前に噴出し視界を覆った。
突然の頭痛、激しい光が北斗を襲う。
――な、なに?
頭痛と眩しい光の中で、様々な映像が北斗の目の前で目まぐるしく変わっていく。
意識が遠のく寸前――
フラッシュバックする視界の先で微笑む母の顔が見えた気がした。
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