うららかな日差し。
楽しそうな男女の笑い声。
周りには見る者を飽きさせないアトラクションの数々。
そう、ここは男女の憩いの場、一度は恋人と行ってみたいデートスポットの一つ ――遊園地―― である。
今回の元凶である男の後姿を眺めながら兇は眉間にしわを寄せていた
目の前の男 ――黒崎 光一(兇のクラスメート&悪友)―― は何を思ったのか日曜日の朝早くからクラスの女の子達を連れてこんな所に自分を呼び出したのだ。
いわゆる合同デートというのであろう・・・普通ならダブルデートとか言うのかもしれないが ――女の子5人に対し男は光一と兇の二人だけ―― 圧倒的に男の数が少ないので合同と言うのが一番ふさわしいだろう。
――なんで俺がこんな所に、しかもこんな大勢の女の子達とデートしなきゃいけないんだ?
至極当然な疑問を先程から何度も一人で問答していた。
――事の発端はこいつだ・・・。
兇は目の前の男をジト目で見据えた。
早朝一番、光一に急に呼び出されたと思ったら、挙句の果てには「女の子達とデートしようぜ」なんて言って来たのだ。
光一の事だからきっと自分を餌に使ったに違いない。
そう思ったらなんだか腹が立ってきた。
―――やっぱり帰ろう
そう思って目の前の男に声をかけようとしたその時。
「ねえ、ねえ、兇君、次はあれに乗ろうよ〜♥」
甘えた声で言ってきたのはクラスの女の子。
それに便乗してか他の女の子達も「行こう」と嬉々として誘ってくる ――その瞳はキラキラと輝きしかもハートが浮かんでいた。
「よ〜し行くぞ〜〜♪」と悪友の声と共にみんなは歩き出し、兇はそれに逆らえずされるがままに腕を引かれて行った。
結局、みんなの強引さに負けて何も言い出せないでいるのだ。
そして言えない原因はもうひとつ ――ちらりと目だけで横を見ると。
『彼女』がみんなと一緒になって自分の腕を引いていた。
「え〜〜ここに入るの〜」
暫くされるがままに園内を引きずられていると、女の子達の不安げな声が揃って聞こえてきた。
その先にはレトロなおどろおどろしい文字で『お化け屋敷』と書いてある建物が見える。
「大丈夫♪大丈夫♪どうせ作り物なんだからさ〜♪」
楽しそうな声で言うのは悪友 ―― 光一 ―― のものだった
その言葉に「え〜、でも〜〜こわ〜い」と、ちらちらと一箇所に視線を送りながら女の子達は可愛くイヤイヤをしている。
それぞれ魂胆は見え見えで・・・悪友の顔を見ながら兇はハハハと乾いた笑い声を出していた。
そんな思惑の渦巻く中で、ふと『彼女』の事を思い出し慌てて視線を向けると。
『彼女』は案の定、青ざめながら引きつった笑顔を見せていた。
―――まずいな
『彼女』―――那々瀬 北斗―――は幽霊やお化けの類は大の苦手だった。
「みんな、他の場所に・・・・て、あれ?」
彼女の事を考えたらここに入るのは得策ではないと思った兇は慌てて声をかけたのだが、時既に遅くその先ではチケットを係員に渡して建物の中へと入って行く光一達の姿があった。
そして、先に中に入っていた光一が振り向きざま「お〜い先に行くぞ〜〜、那々瀬置いてきちまったから後ヨロシクな〜♪」と手を挙げながら言ってきた。
その後に続く「え〜」とか「鈴宮君は」などと文句を言いだす女の子達の声。
そして光一は不満を漏らす女の子達を強引に連れてお化け屋敷の中へと入って行ってしまった。
しかも通路を曲がる途中、光一は兇にウインクをしエールを送ってきたのだった。
あっという間に取り残された二人は、ポカンと口をあけたまま立ち尽くしている。
―――そういうことか・・・
いち早く我に返った兇は、今回の元凶、悪友光一の本来の目的に気づき額に手を当てながら隣にいる北斗には聞こえないように呟いた。
――まあ、本人もおいしい思いをするのが限定だろうが・・・。
――しかし、このままあいつの思惑通りになってやるのも癪だ、しかも那々瀬さんの事もあるし。
隣の少女の事を思い出し、ここはみんなが戻ってくるのを待っていようと近くのベンチに行こうとしたのだが。
思わぬ北斗の行動で兇の動きは止まってしまった。
「ち、ちょっと那々瀬さんどこ行くの?」
「え、どこってここ。」
北斗の指差す先はレトロな『お化け屋敷』
「む、無理しなくていいよ、だって嫌いだろ?」
ははは、とちょっぴり引きつった笑いを見せながら尚も先に行こうとする北斗を兇は慌てて止めに入った。
「うん、でもみんな先に行っちゃったし、私達だけ行かないのも悪いし・・・ね。」
そしてそのまま中に入って行ってしまった。
那々瀬の思いも寄らない行動に兇は一瞬呆気に取られていたが、はっと気づくと慌てて後を追いかけた。
その先はレトロな『お化け屋敷』。
一見普通のどこにでもある『お化け屋敷』。
だが、この後起こる騒動に兇は無理やりにでも北斗を引き止めておくべきだったと後で後悔するのだった。
辺り一面真っ暗な闇
淀んだ空気にひんやりと肌寒いここは、おどろおどろしいレトロな『お化け屋敷』
入った先では男女の悲痛な叫び声が時折聞こえてきた。
「キャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ガシャ〜ン・・・・・
天まで届く盛大な悲鳴のあとに何かにぶつかり転んだような音が『お化け屋敷』に響いた。
「だ、大丈夫?」
「だ、ダイジョウぶ・・・・て・・・イヤ〜〜〜キャ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
慌てて駆け寄る青年に少女は涙を浮かべた顔を上げた次の瞬間、声にならない声をあげた。
ガタガタと震える少女の視線の先。
兇が慌てて振り返ると、作り物だとわかるほどの出来の悪い幽霊の人形がぶら下がっていた。
「だから言ったのに・・・」
兇はあきれ顔で呟きながら、完全に腰の抜けた北斗を立たせてやる。
「ご、ごめん」
北斗はシュンとうな垂れながら兇の腕に掴まったまま申し訳なさそうに謝った。
「だいぶ進んだけど、みんないないな・・・」
そう言いながら辺りを見回す兇に、北斗もつられて辺りを見回す。
悲鳴をあげながら走って逃げていく北斗を追いかけたお陰で『お化け屋敷」をだいぶ進んだはずなのに、一向に光一たちと合流することができずにいた。
怪訝に思っている兇の横で北斗が「あっ」と小さな声をあげた。
振り向くと北斗はある場所を指差していた。
「ほら、あそこに人がいるよ!こっち呼んでる!きっと光一君達だよ♪」
途端に元気を取り戻した北斗は兇の腕からするりと離れたかと思うと、先ほど指差した場所へと走り出す。
「あ、那乃瀬さん待って!そこは・・・」
兇の静止も聞こえないのか北斗は走っていってしまった。
――まずい、あの先は・・・・
慌てる兇の表情には焦燥の色が見て取れた。
北斗が走って行ったその先には――――――
青白い人魂があった。
「も〜〜、兇君と一緒に歩きたかったのに〜〜!」
なんであんたと!と頬を膨らませながら今日の主催者 ――― 光一 ――― の顔を睨む数名の女子達。
睨まれた光一は「ははは」と引きつった笑顔を見せながらこめかみに青筋を立てて詰め寄る女子達をなだめていた。
兇達が『お化け屋敷』に入った後、どこをどう進んだのかあっという間に出てきてしまったクラスの女の子達は、兇と北斗がいないことに気付き腹を立てていた。
それもそのはず、女子のほとんどは光一の「きょう一日、兇とデートができるよ〜」という甘い言葉に誘われて喜んで来ていたのだ。
二人きりになるどころかライバルが何人もいるわ、当の本人はいつの間にかいなくなっているわで女の子達の不機嫌は最高潮を迎えていた。
そんな怒り100%の乙女達を前に、さすがの光一も顔面蒼白、額にはだらだらと滝のような汗が流れていた。
「ねえ、もしかしてこれがあんたの目的?」
そんな光一の耳元でそっと囁いたのは北斗の親友 ――― 青柳 若菜 ――― だった
「えっと、まあ・・・ははは〜」
バツの悪そうな表情で頬をぽりぽりと掻きながら言葉に詰まる光一をジト目で見たあと若菜は小さくため息を吐いた。
「ごめ〜ん、そう言えば北斗、具合が悪いから先帰るってさっきメールあったんだ〜。」
突然若菜は顔の前で手の平を合わせクラスの女の子達に謝りだした。
へ?と呆けている光一のわき腹を肘で小突くと、若菜は光一に目配せをする。
それを見た光一は慌ててみんなに謝罪しはじめた。
「あ、そうだったそうだった!那々瀬の奴が急に具合悪くなったみたいで兇が送ってくって俺にもメールが来てたんだ〜〜あはは〜忘れてたわ〜〜。」
「なんですって〜〜〜!!」
「ちょっとどういう事よ!」
「聞いてないわよそんな話!!」
光一の言葉を聞いた女の子達は一斉に光一へと詰め寄る。
喧々囂々、女の子達から非難の声を浴びせられる光一。
そんな光景を横目で見ながら若菜は心配そうに呟くのであった。
「ほんと、どこ行っちゃったんだろあの二人」
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