「え〜〜ここに入るの〜」
暫くされるがままに園内を引きずられていると、女の子達の不安げな声が揃って聞こえてきた。
その先にはレトロなおどろおどろしい文字で『お化け屋敷』と書いてある建物が見える。
「大丈夫♪大丈夫♪どうせ作り物なんだからさ〜♪」
楽しそうな声で言うのは悪友 ―― 光一 ―― のものだった
その言葉に「え〜、でも〜〜こわ〜い」と、ちらちらと一箇所に視線を送りながら女の子達は可愛くイヤイヤをしていた。
それぞれ魂胆は見え見えで・・・悪友の顔を見ながら兇はハハハと乾いた笑い声を出していた。
そんな魂胆むき出しの中で、ふと『彼女』の事を思い出し慌てて視線を向けると。
『彼女』は案の定、青ざめながら引きつった笑顔を見せていた。
―――まずいな
『彼女』―――那々瀬 北斗―――は幽霊やお化けの類は大の苦手だった。
「みんな、他の場所に・・・・て、あれ?」
彼女の事を考えたらここに入るのは得策ではないと思った兇は慌てて声をかけたのだが、時既に遅くその先ではチケットを係員に渡して建物の中へと入って行く光一達の姿があった。
そして、先に中に入っていた光一が振り向き「お〜い先に行くぞ〜〜、那々瀬置いてきちまったから後ヨロシクな〜♪」と手を挙げながら言うと、「え〜」とか「鈴宮君は」などと文句を言いだす女の子達を強引に連れて行ってしまった。
しかも、通路を曲がる途中で兇にウインクをして見せたのだ。
二人取り残された兇と北斗はポカンと口をあけたまま立ち尽くしていた。
―――そういうことか・・・
今回の元凶、悪友光一の本来の目的はこれだったんだなと額に手を当てながら隣にいる北斗には聞こえないように呟いた。
まあ、本人もおいしい思いをするのが限定だろうが・・・。
しかし、このままあいつの思惑通りになってやるのも癪だ、しかも北斗の事もあるし・・・
隣の少女の事を思い出し、ここはみんなが戻ってくるのを待っていようと近くのベンチに行こうとしたのだが。
思わぬ北斗の行動で兇の動きは止まってしまった。
「ち、ちょっと那々瀬さんどこ行くの?」
「え、どこってここ。」
北斗の指差す先はレトロな『お化け屋敷』
「む、無理しなくていいよ、だって嫌いだろ?」
ははは、とちょっぴり引きつった笑いを見せながら尚も先に行こうとする北斗を兇は慌てて止めに入った。
「うん、でもみんな先に行っちゃったし、私達だけ行かないのも悪いし・・・ね。」
そしてそのまま中に入って行ってしまった。
那々瀬の思いも寄らない行動に兇は一瞬呆気に取られていたが、はっと気づくと慌てて後を追いかけた。
その先はレトロな『お化け屋敷』。
一見普通のどこにでもある『お化け屋敷』。
だが、この後起こる騒動に兇は無理やりにでも北斗を引き止めておくべきだったと後で後悔するのだった。
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