「那々瀬さん待った!」

ようやく追いついた那々瀬の腕を掴みながら兇は静止の声をかける。

腕を掴まれた北斗は兇の言葉に首を傾げた。

「え、なんで?みんな行っちゃうよ」

そう言いながら先ほど走っていこうとしていた場所を指差す。

「いや違うから、アレは光一達じゃないから」

そう言うと北斗の腕を掴んだまま兇はアレのいる場所を見据えた。

つられて北斗も兇がアレと呼んだモノを目を凝らして見てみた。

北斗が先ほど光一達と思っていたモノ達は、いつか見た手招きする影達だった。

しかもその輪郭はぼんやりと青白く光り、目や口と思われる部分が黒くぽっかりとあいていた。

しかも口の部分はにたりと笑っているように見え、さらには青白い手がおいでおいでとこちらに向かって手招きさえしていたのだ。

「ひっ」

北斗は声にならない声を上げると兇の腕にしがみついた。

兇は北斗を後ろに庇うと異形のモノ達をじっと見据え、頭の中で彼らに話しかけはじめた。

――― なぜここにいる、お前達はあの廃校に戻れ。

――― ソレ ホシイ   ヒカリ  ホシイ

兇の言葉に異形のモノ達は北斗を指差し答えた。

――― だめだ、この子は渡さないお前達はあるべき場所へ帰れ。

――― イヤダ  ソレ喰ウ  オレタチ ヒカリ ナル

北斗を見ながら三日月形の口をさらに大きく開けて笑う異形のモノ達。

気がつくと兇達は無数の青白い光達に囲まれていた。

じりじりと間合いを詰めて来る光達。

その恐怖に北斗は悲鳴を上げた。

それを合図とばかりに異形のモノ達が飛びかかってきた。

恐慌状態に陥った北斗を庇いながら兇は器用に避けていく。

それでも尚襲いかかってくる光達。

青白い光達は細く長く体を伸ばしては北斗の体を攫おうとする。

その異様な光景は北斗に必要以上の恐怖を与えた。

恐怖のあまり意識を失いかけたその時、北斗の耳に鈴の音が聞こえてきた。

ちりーん りーん ちりりーん

次第に大きくなるその音色は北斗の恐怖を和らげ同時に眠りを誘う。

不思議と安堵する心に戸惑いながらも、その鈴の音を聞きながら北斗は意識を手放した。

その瞬間まばゆい光が北斗を包み込み膨張する。

今まさに北斗の体を引きちぎろうと腕を伸ばしていた異形のモノ達はその光に触れ霧散した。

―――お前達にこの子は渡さないよ

北斗が意識を手放す間際、耳元で優しくささやく声が聞こえた気がした。


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