「那々瀬さん、那々瀬さん」
遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。
緊張を帯びた声には焦りさえ感じられる。
その声に、ゆらゆらとまどろみの中に身を投じていた己の体が反応し、急激な浮遊感と共にぼやけていた意識がはっきりしだす。
目を開けると目の前には黒い人影がオレンジ色の光を背に自分の顔を覗き込んでいた。
その視界に飛び込んできたのは ―――― 心配げに瞳を揺らす兇の姿だった。
息が掛かるほどの至近距離にある男性の顔 ――― しかも美形 ――― に驚いた北斗は慌てて飛び起きた。
その瞬間ぐらりと視界が揺れ体が傾く。
落ちる!と思った瞬間あたたかい手に背中を支えられ、気づけば兇の腕の中にすっぽりと納まっていた。
思わず顔をあげると、そこには兇の顔のドアップ。
「☆▲&◇%!■!!」
北斗は先ほどと同じ至近距離にある整った顔立ちに、声にならない声をあげ頬を高潮させたまま固まってしまった。
「那々瀬さん?」
いきなり飛び起きたかと思ったら、そのままベンチから転げ落ちそうになった北斗を助けたはいいが、自分の顔を見るなり真っ赤な顔をしたまま微動だにしない彼女に、どこか具合が悪いのかと兇は首を傾げながら彼女の顔を覗き込んだ。
すると、さっきまで固まっていた北斗はいきなりわめきだしたかと思うと、兇を思い切り突き飛ばした。
「ち、ちかい〜〜ちかいってば〜〜〜///」
肩でぜいぜい息を吐きながら北斗は真っ赤な顔で叫ぶ。
突き飛ばされた相手 ―――兇はベンチの下で尻餅をついたまま呆然と北斗を見上げていたのだった。
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