「ごめんね、ごめんね〜〜〜痛かったでしょ?痛かったよね・・・ほんとにごめんなさい」
目の前の相手に北斗は何度も頭をさげて謝っていた。
既に日の傾きかけたこの場所は、男女の憩いの場であり一度は恋人と一緒に行ってみたいデートスポットの一つ―――遊園地。
の中にあるレトロな『お化け屋敷』の前にあるベンチに二人は座っていた。
「ほんとにごめんね。目が覚めたらい、いきなり兇君の顔があったもんだから」
そこまで続けると北斗は頬を染めながら俯いてしまった。
「大丈夫だよ、結構俺頑丈だから」
言ってにっこり微笑む兇―――心なしかその笑顔には薄ら寒いものを感じるのだが。
「で、でも」と尚もうなだれる北斗。
ふいに兇の手が北斗の頬に触れると、北斗は弾かれたように兇の顔を見た。
「良かった、どこもなんともないようだね」
頬に手を添えたまま、何かを確かめるように言いながら安堵のため息をつく。
北斗は兇の言葉に内心首を傾げながら、そういえば、と今ある状況を確認しようと口を開いた。
「あ、そういえば私達あの『お化け屋敷』に入ったんだよね?いつの間に外に出たのかな?」
「ああそれは、中のお化けの人形に驚いた拍子に走って逃げ出して角を曲がり損ねて壁に激突して気絶しちゃった那々瀬さんを俺がここまで運んできたからだよ」
ひと呼吸で一連の内容を言い終わると爽やかに、そりゃもう爽やかに兇は北斗に微笑んでみせた。
「ご、ごめんなさぃ」
兇の説明を聞いた北斗はみるみる小さくなっていく ――― しかも謝罪の語尾も弱弱しく小さくなっていった。こ、怖いよ鈴宮君・・・
顔は青ざめ尚も小さくなる北斗に、兇は内心ほっと安堵していた。
――― 良かった何も覚えていないようだ。
「暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか?」
「あ、うん」
兇に促され北斗はベンチを立たちながらふと、まだここまで運んで来てくれたお礼を言っていないことに気がついた。
さっき鈴宮君を突き飛ばしちゃったことはまだ気になるし気まずいし、でもいつまでも謝っていたら逆に鈴宮君に迷惑だよね。
鈴宮君は許してくれたし、とりあえず『お化け屋敷』からここまで運んでくれた事は何かお礼しなきゃ。
そんなことを考えながら隣に立つ兇をちらりと盗み見る。
ちらと見たつもりが、兇とばっちり目が合ってしまいそのまま笑顔で返された。
「!!あ、あの、こ、これからどっかでご飯食べていこうよ」
さっきのお礼もしたいし ―― 熱くなる頬を隠すように視線をそらしながら早口でそう言うと、北斗は兇の視線から逃げるように先に歩き出してしまった。
「あ、ま、待って那々瀬さん!」
ほとんど駆け足状態で先を行く北斗を兇は慌てて追いかけていく。
傍目には甘酸っぱい青春の一ページのようなそんな光景を見ていたのは、おどろおどろしいレトロな『お化け屋敷』と藍色に変わりゆく空を横切るカラスだけであった。
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