明る過ぎるほどの照明と人々の楽しそうな声、バイキング形式の店内の中央には多国籍の料理が所狭しと並べられており、おいしそうな匂いにつられて人々が右往左往する。

兇達がいるここは、友達や家族、はては恋人達の安らぎとお腹を満たしてくれる場所―――ファミレスである。

窓の外から見える景色は既にオレンジから濃紺の夕闇に塗り替えられており、店内の明るさが一層際立っていた。

目の前のテーブルには料理が所狭しと並び、その先には顔を綻ばせながら楽しそうに話をする少女。

先ほどの遊園地を後にした兇と北斗は最寄の駅の側にあるファミレスに落ち着いていた。

「でね、歴史の先生がこの前―――」

北斗の楽しそうな会話に微笑みながら兇は相槌をする。

しゃべるのは北斗、それを聞くのは兇という傍から見れば恋人同士にしか見えない光景を何度も繰り返していた。

しかし、いかんせん残念ながら二人は周りの期待を裏切るかの如く、ただのクラスメートである。

この先どういう風に二人の関係が変わっていくのかは未だ未知の領域だが、現在進行形では全くもってそんな甘い展開には発展する要素も様子も皆無なのだが。

そんな北斗の一方的な会話の中、食事も進み残るはデザートのみとなった頃、北斗が驚きの声をあげた。

「鈴宮君て甘いもの好きなんだ?」

言われた本人は一瞬呆気に取られ、バイキング特有の小さなチョコレートケーキをフォークに刺し、今まさに口の中へ入れようという所で固まっていた。

「え、へ、変かな?」

「あ、ううんそういう意味じゃなくて、なんか甘いもの苦手かなぁ〜て思ってただけだよ、ホントそれだけ」

口元にケーキを運んだまま引きつる兇に、内心焦りながら北斗は弁解していた。

「そんなに以外だった?」

「え、あ〜うん、でも勝手に思ってただけだし、それに」

止まったのは数秒で、すぐにいつもの調子を取り戻した兇は苦笑しながら北斗の言葉を待つ。

「それに、クラスの男の子達って結構甘いもの苦手な子多いんだよね、だから一緒に食べに行ったときいつも私だけ食べてて気まずくって」

北斗の言葉に兇は本日二度目の氷付けにあった。

それってつまり、那々瀬さんは他の男と一緒にいつもご飯食べに行ってるってわけだよな?えっと、それってやっぱり・・・

そこまで考えつくと兇の顔色は次第に青くなりはじめる。

必死に引きつる口元をなんとか制し、崩れた微笑を顔に張り付かせながら顔を上げているのが精一杯だった。

実は北斗とのこの早い夕食を結構楽しんでいたのだ。

気を抜くとにやける顔を引き締めながら、内心ガッツポーズ状態だった兇には先ほどの北斗の言葉は衝撃的だった。

まさに天国から地獄にドロップキックで突き落とされたような心情だ。

しかも男の子達ときたものだ。 自分の知らない所で他の男達と楽しく話をする北斗の姿を思い浮かべてしまい、兇は知らず舌打ちしていた。

「だから、こうやって一緒にケーキとか食べてくれるのって嬉しいかも」

気分が落ち込みかけていた兇は北斗の突然の言葉に一瞬固まった ――― これはまずい、北斗の不意打ちの言葉に頬をうっすら染めながら内心動揺する。

「結構男の子達とご飯食べに行くんだね」

動揺を隠そうとしただけなのだが、これではまるきり逆効果。

まるで嫉妬している恋人のような己の物言いに、内心舌打ちしながら眉間にしわを寄せた。

「あ、男の子達だけってわけじゃなくて、もちろん女の子の友達も一緒だよ。時々たまに、若菜に誘われて、ほら若菜って黒崎君達とも仲良いし。」

兇の言葉の意味を勘違いした北斗は慌てて弁解する。

「ああ、ごめんそういう意味じゃなくて、俺あんまり女の子と食事とかしたことないから、なんか良いなって。」

悪友の名前が出たことには驚いたが、北斗の必死の説明に何だか申し訳ない気分になり苦笑しながら訂正をする。

実際、兇や北斗達くらいの年齢になると男女で食事に行く位は普通なのだが、いかんせん兇にはそういった経験がほとんど無い。

恋愛に疎いのもその原因ではあるのだが、しかし女の子達から食事に誘われたことは無いのかと聞かれればノーである。

容姿端麗、冷静沈着、もれなく天使のような微笑もついてくるとあれば女の子達が放って置くわけも無く、食事に誘われることなど数え切れないほどあり日常茶飯事に起こっている。

ただ、女の子と食事に行こうものならちょっとした事件になりかねないのだ。

以前、クラスの女の子達から食事に誘われたことがあったのだが、その時兇は深く考えずに了解してしまった。

その数分後、噂を聞きつけた他のクラスの女の子達が私も私も、と教室になだれ込んできて、気づいた時には教室に収まりきらないほどの女子達が集まってきてしまったのだ。

あの時は、親友の光一が女の子達を落ち着かせてくれて、なんとか食事の話は無かった事にできたのだが、今思うと彼女達が大人しく引き下がってくれたのは、まさに奇跡だったとしか言いようが無い。

そんな恐怖体験をした兇本人はというと、それ以後女の子達の誘いには気安く返事をしないと固く心に誓ったのであった。

「あ、そうだよね〜」

あの時は大変だったね、と北斗も同じ事を思い出していたのであろう訳知り顔で頷いていた。

「もし」

「ん?」

「もし良かったら、またこうやって一緒にご飯食べに誘ってもいいかな?」

天使の笑顔と共に紡ぎ出された言葉に、今度は北斗が一瞬固まった。

そしてそのすぐ後に

「うん!また食べに来ようね。」

本日最高の笑顔を彼に向けた。


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