北斗と楽しい夕食を終え、彼女を家まで送って来た兇はすこぶる機嫌が良かった。
無意識に鼻歌まで出てしまう。
家に着いた彼は、自室に戻る廊下の途中でふいに声をかけられた。
「おや、今帰りかい?なんだか今日は珍しく機嫌が良いみたいだねぇ」
背後から聞こえてきた声の主に一瞬で表情を変え振り返った。
「何か用?」
そっけない物言いに声の主は肩を竦めながら苦笑する。
「ご挨拶だな。なんか今日は良い事でもあったのかな、てね。ん?」
「どうしたのこれ?」
言葉の途中で何かに気づき、兇の腕を軽く掴んで持ち上げた。
「ああこれ、出かけた先で遭遇しちゃってね。油断した。まさか冷気を扱えると思わなくてさ庇ったとき少しね。おかげでちょっと霜焼けになった。」
掴まれた腕を引き戻し、自身の空いた手で庇うように支えながら肩を竦め自嘲する。
「めずらしいねぇ。キミが怪我するなんて。」
声の主は珍しい事もあるもんだ、と兇の怪我した腕をまじまじと見つめた。
「んで、どこのお姫様を庇ったんだい?」
相手の突然の質問に兇は思わずむせてしまった。
「う、げほっ、ごほっ・・・な、なん」
「はっはっは、隠さなくて良いんだよ〜。いやぁ〜兇君はわっかりやすいねぇ〜〜♪」
真っ赤な顔で睨みつける兇など気にも留めず、咳き込む相手の肩をぽんぽんと叩きながら声の主はケラケラと笑った。
「てか、なんで家にいるんだよ!いつもは研究室に篭りきりじゃないのか?」
まだむせる口元を押さえながら涙目で訴える。
その姿が可愛くて、おかしくて、声の主はまたくすくすと笑いながら答えた。
「僕だってたまには家に帰るさ。まあでも今日は早めに帰ってきて良かったよ。色々収穫もあったしね」
言って兇の顔を覗き込みながら、にっこりと微笑む。
その小悪魔のような微笑みに内心寒気を覚えながら兇は視線を乱暴に逸らして吐き捨てた。
「言ってろ」
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