がやがやと騒がしい相変わらずなこの場所。

正門をくぐると、朝の挨拶を交わし合う生徒達の姿が視界に入ってくる。

兇はいつものように熱い視線を受け流しながら登校していると、背後から勢い良く背中を叩かれた。

「よっ!昨日はどうだった?」

反動でよろめきながら振り返ると、にやにやと意味ありげに笑う光一と目が合った。

「別に」

―――ここで捕まったら終わりだ。

危険だと本能が告げるままに、相手にしないよう素っ気なく言うと、そのまま何事も無かったかのように歩き出す。

「お〜〜い、おいおいおいおいおい!!つれねえじゃねぇかよ〜〜〜!」

―――叫ぶな!

内心焦りながらも、周囲の視線を気にせず絡み付いてくる光一を引き剥がし睨みつけてやる。

しかし、その程度で怯む相手ではなく、逆に喰らいついて来るのがこの男 ―― 光一だ。

聞かせろと言わんばかりに、あろうことか今度は首に絡み付いてきた。

「な〜な〜な〜、昨日あんだけ俺が気ぃ使ってやったんだからあの後どうなったのか位教えろよ!」

好奇の視線の中、ふと昨日のことを思い返す。

光一の昨日というと、あの遊園地の一件の事だろう。

何やら自分と北斗のことを二人きりにさせようと気を遣ってくれていたのはありがたかったが、ここであの後の出来事――北斗と一緒にご飯を食べに行った――を説明してやる義理も無い。

というかしたくない。

なんせ光一は、以前から北斗達と何度か外食したり出かけたりしていたというのだ。

別に光一が悪いという訳では無い・・・無いのだが、何だか面白くないので言いたくなかった。

胸中でそんな事を思いながら、兇が眉間にこれでもかと言うほど皺を寄せて返答に困っていると、突然光一が「あっ」と小さく声を上げ首に絡めていた腕をほどいた。

なんだ?と内心首を傾げながら光一の視線の先を辿る。

その途端、兇の顔が青褪める。

光一が兇から離れるより早く、今度は兇が光一の首に腕を絡める結果となった。

光一の視線の先―――その先には彼女がいた。

いや、正確には彼女とその友達もいたのだが、今の兇にはそれを確認している余裕は無かった。

「な〜んの真似かな〜?きょ う く ん」

羽交い絞めにされているにも関わらず光一の声は楽しそうだ。

その理由をよ〜く理解している兇は、光一を押さえつけながら低い声で唸った。

「いいからやめろ」

「なにを?」

実に楽しそうに返してくる悪友に、今度はこめかみに青筋を立てながら唸る。

「余計なことすんな!」

「え〜いいじゃん、聞くだけだし」

唇を尖らせ抗議するがその瞳は笑っていた。

兇の空気が不穏なものに変わる寸前、光一は降参のポーズを取る。

「あ〜わかったわかった。冗談だってば、そうムキになるなよ」

光一の言葉に多少警戒しながらも力を緩めると、光一はするりと兇から離れた。

「な〜〜んてね♪」

言うが早いか、光一は彼女めがけて走って行ってしまった。

突然の行動に兇が呆気に取られている間、光一は北斗の隣にいる若菜の肩を叩いて気づかせ一言二言交わす。

そのすぐ後に北斗が振り返り、兇に向かって「おはよう」と言いながら手を上げ満面の笑みでこちらを見ていた。

―――やられた

光一の悪戯にあっけなく引っかかってしまった自分に舌打ちする。

しかし、一瞬迷ったが足早に彼女の隣に並ぶと、うっすらと頬を染めながら笑顔で挨拶を交わし、そのまま4人で仲良く教室まで歩いて行ったのだった。


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