「えっと、それってつまり・・・」
朝の食事の間から困惑気味の北斗の声が聞こえてきた。
「うん、菊さんは人間じゃないんだ。」
「じゃ、じゃあ私が見たのは?」
「あれが菊さんの本当の姿。それとお岩さんもね。」
「・・・・・」
昨晩はあまりの出来事に自室に戻った北斗は、布団を頭から被り恐怖に怯えて一睡もできなかった。
そして早朝、北斗の部屋を訪れた兇は話があるからと言って北斗を食事の間に連れてきた。
先ほどの説明を聞いた北斗だったが、あまりにも衝撃的過ぎて言葉に詰まってしまった。
部屋の隅では、押し黙ってしまった北斗から距離を置くようにして菊が俯きながら座っていた。
北斗はそろりと菊を見ると視線に気づいた菊が、申し訳なさそうな顔でこちらを見返した。
ばっと視線を元に戻した北斗はわなわなと震える声で言った。
「そ、それじゃあ・・・菊さん達は幽霊・・・。」
「うん。」
兇の返事に北斗は完全に言葉を失う。
顔色は見る見るうちに青褪めていき、体は小刻みに震えていく。
「え・・・と、つまりうちは」
見る間に怯えた表情になっていく北斗を見て、兇もどう説明しようかと視線を彷徨わせてしまう。
「うちの家系はもともと彷徨える霊たちを保護、もしくは更生させる所なのさ。」
言い淀む兇に変わって明るい口調で説明してきたのは猛だった。
部屋の壁に寄りかかりながらにこにこと屈託の無い笑顔を向けている。
「霊を保護?更生?」
猛の言葉に北斗は震えるのも忘れ首を傾げながら聞き返してきた。
「そ、うちは元々悪霊から村や街を守ったり、彷徨える霊達を霊界へと送る霊導者みたいなことをやっててね、でもそのうち霊導できない霊たちが出てきて面倒を見るはめになちゃったんだこれが。」
あはははは、と爽やかに笑いながら一族の秘密を暴露した。
「黙っててごめん。」
猛の話を理解しきれず固まる北斗に、兇は深々と頭を下げながら謝った。
「そりゃそうだよねぇ〜、転がり込んだ先がお化け屋敷だったなんて、普通の女の子じゃあキツイよなぁ〜。」
猛はのんきにそんな事を言いながらカラカラと笑った。
「あ、で、でもここに居れば安全だと思ったんだ。相手はその・・・」
「幽霊ううん悪霊だったって事?」
ようやく状況が飲み込めてきた北斗は震える声で兇に問いかけた。
「うん。那々瀬さんの家を燃やしたのはたぶん・・・」
言い辛そうに頷く兇を、意識が遠のきそうな頭で確認した北斗はぶるぶると震えだし。
「きゃあぁぁぁぁぁ、いやあぁぁぁぁぁ!祟られちゃうよ〜〜!!」
突然がくがくと震えると、真っ青な顔になった北斗は滝のような涙を流し頭を抱えながら叫び出した。
ぷっつん。
何かが切れる音がした。
その直後、北斗は突然ぱたりと倒れた。
目の前の出来事に一同唖然とする。
一瞬の間を置いたあと、それぞれ一斉に騒ぎ出した。
「こ、氷持って来て!あと布団も!!」
「那々瀬さん!那々瀬さん!」
「あらら〜、こりゃ重症だわ。」
「あああ〜私のせいで・・・北斗さんお気を確かに!」
「何か僕余計な事を言っちゃったかなぁ〜・・・き、兇君そんなに睨まない・・・あ、ふとん、布団持って来るね。」
ドタバタと慌ただしい喧騒の中、意識を手放す前に北斗は心の中で叫んでいた。
―――絶対出てってやる!
父日本到着まであと2日。
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