「様子は?」
「一言も喋ってくれなかったよ。」
北斗の部屋から帰ってきた兇は、猛の問いかけにコップの乗ったお盆を持ったまま溜息混じりに答えた。
「まあ、しょうがないよねぇ。しかも彼女、お化けとかの類嫌いなんでしょ?」
お手上げだねぇと、言いながら猛は大げさに肩を竦めてみせた。
「誰のせいだと思ってる?」
悪びれた様子のない猛に、兇は口元を引き攣らせたまま得意の天使の微笑みを披露した。
「ま、まあ遅かれ早かれ、いつかはバレる事だったし。」
「彼女が家を出て行ったらどうなると思う?」
冷や汗をだらだら流しながら弁解する猛に冷ややかな兇の突っ込みが入った。
「・・・・・まあ、奴らの格好の的になるよねぇ〜。」
「それでなくとも4回も引きずり込まれそうになってるんだ。」
「は?4回?」
兇の言葉に猛は初耳だと言わんばかりの視線を向けた。
「一度目は学校の旧校舎の地下、二度目は遊園地。その後は知っての通りだ。」
「という事は。」
「やつらは既に動けるようになっている。」
「ちょ、それはまずいよ!」
「だから急いでるんだ。」
兇のいつにない強い口調に猛も真剣な顔つきになる。
「でも、おかしいよね?兇がいたのに何故そこまで彼女をつけ狙うんだ?」
「俺もその事はおかしいと思ってた。」
何か思い当たるふしでもあるのか暫く考え込んでいた猛が口を開いた。
「わかった、こっちで調べてみるよ。」
「頼む。」
珍しく素直に頷く兇に一瞬驚いた顔を見せていた猛だったが、すぐにいつもの表情に戻る。
「了解♪」
猛もまた兇と同じく得意の悪魔の微笑で返した。
頭がガンガンする。
胸もむかむか気持ち悪い。
北斗は布団の中で痛みに悶えていた。
今日はあれから部屋に運ばれてそのまま学校を休んでしまった。
先ほど薬の乗ったお盆を持った兇が部屋に来て声をかけてくれたのだが、寝たふりをしてしまった。
悪いとは思ったが、やはりあんな事があった後では話す気にはなれなかった。
鬱々とした気分のまま時計を見ると、13時になったばかりだった。
学校が終わるには早すぎる、兇も一緒に休んでくれたようだ。
―――悪い事しちゃったな。若菜も心配してるだろうな。
北斗は罪悪感を感じながら枕元に置いてあった携帯に手を伸ばした。
着信履歴を見ると若菜からの着信が数件入っていた。
着信の音は聞こえていたのだが、なんとなく出たくなくて今まで無視してしまっていた。
もし出たとしても迷惑をかけてしまうだろう。
ありのままを話せば若菜も分かってくれるのだろうが、鈴宮君の家の事や悪霊の事などを話せばきっと家に連れて帰ろうとする。
もしかしたら警察にも行くかもしれない。
そして、私の事を一生懸命守ってくれようとするのだ彼女は。
「昔から私の面倒ほんと良く見てくれてたもんねぇ〜。」
家庭が複雑だったため、世話好きの若菜はいつも北斗を助けてくれた。
自分の事よりも北斗を優先してくれる若菜にはいつも感謝していた。
―――おかげで中学生活はちっとも寂しくなかったもん。
休みの日には若菜の家に泊まりに行ったり、若菜がアパートに泊まりに来たり、お互いの家を行ったり来たりしていた。
―――夏休みの家族旅行にも一緒に連れて行ってもらったっけ。あ、食費がピンチの時はお弁当も作ってくれたなぁ〜。
楽しい思い出ばかりでつい笑みが零れてしまう。
だからこそ巻き込みたくないと思った。
「やっぱり、ここに居た方がいいのかなぁ〜」
ぼんやりと天井を眺めながら北斗は呟いていたのだが、ふとした拍子で昨夜の事を思い出してしまい恐怖で身震いした。
――ー無理、ムリムリ!やっぱ無理だよリアルお化け屋敷なんてシャレになんない!
北斗は布団の中で勢いよく頭を振った。
「ひと晩だけ、ひと晩だけ泊めてもらおう。」
意を決した北斗は布団を握り締めながら「よし」と力強く頷くのだった。
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