彼 ―――兇は困り果てていた。

自分の不注意なのは分かっている、軽率だったとよ〜〜く反省している。

だからって・・・・

―――また座り込んで泣く事ないだろう・・・・・・

目の前で再び座り込みシクシクと泣いている少女 ―――那々瀬 北斗――― を見て兇は頭を抱えてしまった。

「あ、あのさぁ〜」

困り果てながらも、笑顔を作り北斗に話しかける。

それでも泣くのに忙しい北斗は耳を貸すどころか、こちらを見ようともしない。

「はぁ〜・・・・」

兇は心底困ったという表情で、溜息をつきながら肩を落とした。

「ここ出ようか」

「えっ」

兇の言葉にやっと彼女は振り向いてくれた。

一瞬どきり、とする兇。

振り向いた北斗は頬を涙で濡らし瞳は潤んでいた。

今まで見た事のない彼女を見てしまったような気がして知らず緊張が走る。

―――か、可愛いかも・・・・・

口元を手で押さえ顔を逸らす ―――その頬はうっすらと赤みが差していた。

「で、でも授業は?」

「いいんじゃない?もう時間も過ぎちゃってるし」

幸か不幸か兇のそんな様子に気づかない少女の答えに、本人は内心安堵しながら肩を竦めて見せた。

「え?うわっもう20分も過ぎちゃってる!完全に遅刻だよこれ」

自分の腕時計を見て北斗は驚きの声を上げた。

「ご、ごめんね私のせいで」

「ん〜、別に、ホントは今日サボろうと思ってたから」

「あっそう・・・・」

ジト目で自分を見る彼女を横目にくすりと笑って見せた。

良かった、いつものあの子だ

別段クラスでもあまり話す機会のなかった相手だったし、興味のない相手でもあったのだが、何故かこの時はいつもの彼女らしい振る舞いに嬉しくなった。

「それじゃ、行こうか?」

「あ、でも・・・」

手を差し伸べる兇に、北斗は座り込んだまま言い淀む。

「どうせ生徒なんてほとんど来てないさ、授業って言ったってあの先生の道楽みたいなもんだから大丈夫だよ」

兇は苦笑しながら北斗の手を取り立たせると、出口に向かって歩き出した。

「ま、ここにいたいなら別だけど?」

後ろで佇む北斗に首だけ振り返って聞いてみると、北斗はぶんぶんと激しく首を横に振り慌てて後を追いかけてきた。

その様子にくすりと気づかれないように笑うと、兇はそのまま出口へと向う。

二人は薄暗い階段を昇って行き上の階へと消えていった。


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