「それでね〜その子がね〜」

人込みを避けるように立ち寄った場所は小さな公園――――二人はそのベンチに座っていた。

あれから二人は、せっかくの休みだからと町を歩きながら他愛無いおしゃべりをしたり、美味しそうな匂いにつられて買い食いしたりとのんびりと過ごし、丁度通りかかったこの公園で休憩をしているところだった。

にこにこと笑顔を絶やさず世間話をする少女と、それに相槌を打ちながら聞いている青年は、どこからどう見ても恋人同士に見えるのだが、二人はそんな事には全く気づかない。

「だいぶ顔色が良くなったね」

「へっ?」

ふいにそんな事を言われキョトンとする北斗。

「うん、さっきまで青かったから心配してたんだ」

そう言って、北斗の頬に細くて長い指を這わす。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと〜〜そういう事するなっ!」

両手で、ばっ、ばっと振り払いながら抗議する北斗、心なしか顔が赤くなっていた。

「あ、ああごめん」

振り払われた兇は、ちょっとだけ驚きながら素直に謝る。

元々男勝りな性格の北斗はあまりこういう事に慣れていない。

男の人とは友達での付き合いはあっても、こうやって触れてくる事は無いのだ、その証拠にクラスのほとんどの男子は北斗の事を女としては見ていないのが現実だった。

なので、こういう事をされるとどうして言いか分からなくなってしまい、落ち着かなくなる。

はたはたと火照った顔を手で扇ぎながら、ちらりと隣の兇を盗み見た。

飄々ひょうひょうとしていて掴み所の無い青年は、ぼんやりと空を眺めていた。

―――話すのは初めてかもね・・・

そんな事を思いながら、また隣の青年を伺う。

珍しい色の髪と瞳を持つ青年は、女の子の間では結構評判が良い。

落ち着いた物腰に、誰にでも優しい彼は男女問わず人気がある、しかも顔も美形な部類に十分入るし、しかも背も高い。

人気があるのも頷ける・・・・が、

―――そばにいてもなんとも思わない自分って何なんだかねぇ〜〜

ここに友達がいたらキャーキャー騒いでいただろうな、と友人のはしゃぐ姿を思い浮かべ思わず笑いそうになる。

実は、隠れファンが山ほどいるのだこの男には。

良くわかんないなぁ〜そういうのって・・・・

ちらりと見た隣に座る青年の髪は、陽の光に透けて今は銀色に輝いていた。

髪の毛は綺麗だよね〜

そんな事を思っているとふいに隣から声がかけられた。

「どうしたの?俺の顔になんか付いてる?」

「うわったた、な、なんでもない、なんでもない」

急に話かけられたせいで慌てた北斗は、手を振りながら誤魔化した。

「ふ〜ん・・・」

兇は面白そうに目を細めて北斗を見ている。

「な、なによ?」

「別に〜♪」

そう言いながらも表情は楽しそうだ――――面白がっているのだこの男は。

「それにしてもさ、意外だったな〜」

「なにが?」

「幽霊、ああいうの嫌いだったんだね」

「悪い?」

くすくすと笑う兇を見て、ぷくーと頬を膨らませながら北斗が聞く。

「いや、でも・・・・」

「なによ?」

「気味悪くないの?」

「は?」

「俺が幽霊見えるの」

そう言って北斗の顔を真顔で見つめる。

北斗を見つめるその瞳はどこか寂しげであった。

「ん〜別に、そりゃ幽霊は怖いけど鈴宮君は幽霊じゃないでしょ?」

最後の方は恐る恐る聞いてくる北斗を見て、兇は思わず笑ってしまった。

「ぷっ、くくくく」

「なっ、何笑ってんのよ!」

「くっくく、だって・・そんな当たり・・・前のこと・・・ぷぷっ」

そう言って、堪らないとばかりにお腹を抱えて笑い出す兇を、恨みがましそうな目で見ながら北斗は更に頬を膨らませていた。

「あはは、ごめんごめん でも・・・・ありがとう」

「ほえ?」

にっこりと笑いながらお礼を言われ、意味の分からない北斗は内心首を傾げた。

―――はれ?なんかお礼言われる事言ったっけ?・・・・・わからん・・・・

はてなマークを飛ばしながらあれこれ悩んでいる北斗を見て、兇はまたくすりと笑った。

「な、なによ?」

「いや、ごめんごめん、そういう意味じゃないんだ」

「意味分かんないんだけど・・・・」

「まあ、いいじゃんそんな事、それよりも・・・・」

「 ? 」

「そろそろ帰る?だいぶ暗くなってきたし」

兇の言葉に辺りを見回すと、公園には自分達以外の人影が見当たらなくなっていた。

「ありゃま・・・」

随分長い間話し込んでいたんだなぁ、と自分のしゃべり癖に感心しながら素っ頓狂な声を漏らした。

「そうだねぇ〜そろそろ帰ろっか」

「はいはい」

そう言って、二人は立ち上がり北斗は兇に向かって一言。

「今日はありがと、楽しかったよ それじゃまた明日ね」

「え、一人で帰るの?」

北斗の言葉に、意外そうな顔で聞いてくる兇。

「え? うんそうだけど?」

「送るよ」

「えっいいよ、一日付き合ってもらったのにそこまでしてもらわなくても」

「ふ〜ん、ホントにいいの?」

何やら意味ありげに兇が聞き返してくる。

「な、なに?」

兇の言葉に、内心嫌な予感を感じながら北斗は恐る恐る聞いてみた。

「あそこ、自縛霊がいるよ」

そう言って兇が指差した場所は、ちょうど公園の入り口に生えている木だった。

「え、え、マジ!?」

「うんマジ♪」

青い顔をしながら聞き返してくる北斗に兇は爽やかな笑顔で頷く。

こぉのぉ〜〜〜そんな笑顔で頷くな!!

北斗は内心で毒づきながらも実はビビリまくりである。

顔は青ざめ硬直しまくった体は前に動こうとしてくれない。

「一人で帰る?」

そう言って顔を覗き込んでくる兇の表情はどこか楽しんでいる様だった。

こいつ〜〜〜

目の前の男を睨みあげるが、涙目のしかも体が硬直し震えまで出てきてしまっては迫力も何もあったものではない。

兇はそんな北斗を見てくすくす笑っている。

本来の勝気な性格が邪魔して素直になれない北斗は。

「か」

「か?」

「・・・・・・」

「うん?」

「・・・・・・・・・・帰れません」

見事撃沈!

無理ですそんなの・・・・だって怖いもん。

内心シクシクと泣きながらそんな事を思う。

ちらっと、前を見ると。

北斗の言葉に口元を押さえ必死に笑いを堪える兇の姿があった。

くやしぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

そんな兇を見て怒り心頭の北斗は顔を真っ赤にして兇を睨んでいた。

―――うん、やっぱり可愛いかも。

兇が笑いを堪えながら内心でそんな事を思っていたなど、頭に血が昇りわなわなと震えていた北斗には知る由も無かった。


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