「オッス兇、昨日はどこ行ってたんだよ〜」
朝の爽やかな教室に響いてきたのは、陽気な声で挨拶してくるクラスメートで悪友の光一の声だった。
黒崎 光一――――人付き合いが苦手な兇に何かと世話を焼いてくる人物だ。
クラス一騒がしく、云わばムードメーカー的な存在と言える。
光一は教室へ入ってくるなり、ずかずかと兇の座っている席へと近づくと机に両手をつきながら至近距離で聞いてくる。
兇は『ハトが豆鉄砲を食らった(光一談)』のような顔をしながら目の前のクラスメートをまじまじと見つめた。
「え〜〜と・・・」
「お?なんだ〜その含んだ言い方は〜なんかあったのかな〜?」
視線を逸らせながら言い淀んだ兇に、光一は「何かあるな」と瞳を輝かせた。
「はは〜ん、さては可愛い子ちゃんとい〜い事してたのかな〜?」
ほれ白状しろと、うりうりと肘で兇をつつきながら更に聞いてくる。
「そ、そんなんじゃ・・・なにも無かったよ」
あながち外れていない問いかけに、兇は頬を薄っすらと染めながら答えた。
本来まじめな性格の彼、嘘をつくのは下手な方で・・・・――特に光一よりは下手だ――その為墓穴を掘ってしまった事に気づいたのは不幸にも光一の方だった。
「へ〜〜〜〜〜〜〜♪そうなんだ〜〜♥」
「な、なんだよ?」
「別に〜♪」
自分を見ながらにやにやと笑う光一を、胡散臭そうな視線を送りつつも話題が逸れた事にほっと胸を撫で下ろしていた。
「んで、誰と?」
しかしほっとしたのも束の間で、光一から突然の不意打に思わずむせてしまった。
げほげほと咳き込む兇の背中を擦ってやりながら「わかりやすいヤツ」と苦笑をこぼしながら光一は呟いた。
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