あの後、なんとか落ち着いた兇を待っていたのは、この悪友(=光一)からの執拗な質問攻撃だった。
しかし、兇もやられっぱなしは癪に触ったので昨日の出来事は要点だけ――しかも相手の子の名前も伏せたまま――適当に説明してやった。
「ふ〜ん、で彼女とは何も無かったわけだ」
机に肘をつきその手で顔を支えたまま、つまらなさそうに光一は呟いた。
「そ、何も無かったよお前の喜びそうな事は、な」
「・・・・もったいない」
「お前なぁ〜・・・」
兇の言葉に心底残念そうに呟く光一の顔は本当につまらなさそうだった
兇はそんな悪友の顔を見ながら抗議の声をあげた
「だってそうだろ〜?お前ときたらぜんっぜん女に興味が無いときてる・・・普通それはチャンスだと思わなきゃ男じゃないぜ!!」
鼻息も荒くそう言いながら詰め寄って来る光一の顔を避けながら兇は溜息をついた。
「またその話かよ?今はそんな気は無いって何度言ったら――」
「だ〜〜〜おかしいっ!変だッ!!それでもお前健全な男子高校生か?男だったら女に興味くらいあるだろうが〜〜?・・・・てお前まさかっ!?」
うんざりしながら言おうとした兇の言葉を光一は遮り一気に捲くし立てていたが、突然何かに気づきみるみるうちにその顔が青ざめていった。
突然表情の一変した光一を訝しげに思いながら、兇は光一に「大丈夫か?」と心配そうに言いながら近づいた途端――――
「うわあぁぁぁぁ!お、俺はそんな趣味はないぞおオぉぉぉぉ!!」
と裏返った声で叫びながらもの凄い速さで後ず去った。
「何言ってるんだお前?」
突然叫んだかと思ったら急にこちらを見ながら震える光一に、兇は訳が分からないと首を傾げていた。
――――のだが・・・・。
「だ、だって実はお前男が好き――――ぶはっ!」
冗談にならない内容をわめき散らそうとしたその瞬間、光一の後頭部に兇の鉄拳が炸裂した。
「いいかげんにしろ!!」
兇は青筋を額に浮かばせながら、机に顔ごとめり込んでいる光一に低い声で怒鳴った。
その時――――
「おっはよ〜」
明るく甲高い声が教室に響いた――――正確には騒々しい教室にはたいした音量ではなかったのだが、兇にだけははっきりと聞こえたらしい。
見ると彼女がそこ――教室の入り口――にいつもと変わらない笑顔で立っていた。
目だけで彼女の姿を追っていると、ふいに横から声がかけられた。
「麗しのお姫様のご登場だな♥」
驚いて振り返ると、にやにやと笑いながらしたり顔の光一が腕を組みながら兇を見ていた。
「な、何の事だよ」
背筋に薄ら寒い悪寒を感じ後ず去りしながら光一に聞き返す。
「またまた〜とぼけちゃって♪彼女なんだろ〜〜?」
そう言ってちらりと彼女を見た後、「昨日のデートの相手♥」と兇の耳元でこっそりと囁いた。
今度こそ兇は、何も言えなくなってしまい俯いてしまった――――しかも、その耳はトマトのように赤くなっていたとか。
そんな兇を目を細めながら嬉しそうに見ていた光一は、真っ赤になって俯いてしまった兇の耳元で「なんなら相談乗るぜ」と優しく囁いた。
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