「そうだったのですか・・・」
菊は北斗からの説明を聞き終わった後、安堵の息を零した。
「あの・・・先程は取り乱してしまい申し訳ありませんでした。」
菊は北斗に向き直ると深々と頭を下げた。
「え、いいよ全然気にしてないし。ちゃんと言わなかった私も悪かったんだしさ。」
頭を下げる菊に北斗は手と首を左右に振りながら慌てて言った。
先程自分のせいだと泣きじゃくる菊に本当の理由を教えると、納得してくれたのかやっと落ち着いてくれた。
あのまま放っておいたら絶対菊はお皿を数えだしていただろう。
――さすがにアレはまずいでしょ・・・
以前暗闇の中で見た菊の姿にぶるりと身震いしながら北斗は内心ほっと胸を撫で下ろした。
「しかし北斗様」
「?」
菊は北斗に向き直ると真剣な眼差しで言った。
「その様な事なさらなくていいのです。」
「え、でも・・・もう事件も解決しちゃった訳だし・・・」
「それはそうですが、坊っちゃんの事はどうするのですか?」
「へ?鈴宮君?」
「はい、兇坊っちゃんは北斗様の事を憎からず思っておいでです。北斗様が家をお出になると知ったらそれはそれは、悲しむ事でしょう。」
「え、へ?ちょっと待って!」
「はい?」
北斗は慌てて菊の言葉を遮った。
話の矛先が何故兇に向くのか、そして何故自分が家を出ると兇が悲しむのか、意味が分からない北斗は菊に詰め寄った。
「え、え、そ、それってどういう」
こと?と言う前に菊から明確な答えが出てしまった。
「坊っちゃんは北斗様の事を好いておいでです。北斗様もまた坊っちゃんの事を好いておられるのでしょう?」
何を今更といった表情で菊はしれっと答えた。
菊のその言葉に北斗は完全に頭がショートした。
「それって、それって・・・・」
かあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
火が出る程を、実現した北斗の顔は真っ赤だった。
北斗の異変に気づいた菊が慌てた様子で訊ねた。
「え、え?まさかお二人はまだ?」
こくり
熱の冷めない顔を俯かせたまま北斗が頷いた。
「ま、私ったらてっきり。お二人ともお互いの思いを打ち明け合っていたとばかり・・・も、申し訳ありません!!」
菊は冷や汗を流しながら北斗に謝った。
「あ、いいよ。か、勘違いだったわけだし。」
あはは、と笑う北斗の声は恥ずかしさで震えている。
おろおろと慌てる菊は「そ、そんな事ありえません」と頑なに意見を曲げなかったのだが。
とりあえず菊の勘違いということで無理矢理納得させてその場は収まった。
「帰ったら鈴宮君にどんな顔すればいいんだろ・・・」
一人残った北斗は薄暗くなった空に向かって溜息混じりに呟いた。
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