「はぁ〜〜〜〜〜〜。」
この日何度目になるかわからない溜息を兇はまた吐いていた。
結局今日の捜索は徒労に終わった。
北斗が消えたあの交差点を何度も見て回ったのだが・・・・。
結局何の痕跡も見つからなかった。
思いつく限りの事は全てやった。
探索の式を使ったり、結界破りの呪を唱えてみたり。
挙句の果てにはどこかに監禁されてはいないかと近くの倉庫や物置まで見て回る程だった。
その為近所の奥様方に危うく不審者扱いされそうになり慌てて帰ってきたわけなのだが・・・・。
何の収穫も無いまま手ぶらで家には入り辛く、兇は先ほどから深い溜息を吐いては家の前でうろうろしていたのだった。
「その様子じゃ北斗ちゃん見つけられなかった様だねぇ〜。」
聞き覚えのある暢気な声に兇の片眉がぴくりと上がる。
「誰のせいだと思ってるんだ?」
怒気を孕んだ声で振り返ると、そこには缶コーヒーを片手ににこにこ笑う猛の姿があった。
「誰のせいって?そりゃあもちろん、兇君のせいでしょう♪」
「お・ま・え・なぁ〜〜〜〜〜〜!!」
悪びれもせず飄々と言ってのけた猛に兇が思わず掴みかかる。
「痛いよ兇君〜。」
「ふざけるな!だいたいお前があんなやっかいな依頼押し付けたのが悪いんだろう!!」
へらへらと笑いながらさして痛くもなさそうに言ってくる猛に兇の堪忍袋の緒が切れた。
兇は猛の襟首を掴んで睨み上げると、疲労と怒りでごちゃごちゃになった感情の赴くままに猛へと不満をぶつけた。
「確かに僕が押し付けちゃった依頼だけどさぁ〜〜。」
そんな兇を猛は涼しい顔で受け流すと困ったように肩を竦めて見せた。
そんな猛の態度に兇の怒りは更に増していく。
「この・・・・」
「でもね。」
怒りに任せて怒鳴ろうとした兇の言葉を制し、力任せに首を締め上げてくる手首を掴むと一気に引き寄せてきた。
「連れて行ったのは君でしょう?」
お互いの息がかかるほどの距離。
先ほどまでの薄ら笑いは消え、代わりに鋭い眼光が兇を射抜く。
滅多に見せる事のない兄のその表情に兇は息を飲んだ。
「それに、僕に回ってくる仕事がどんなものかも知っていたよね?」
「なのになんで彼女を連れて行ったりしたの?」そう言って見下ろして来る猛の眼は今まで見たことが無いほどの冷ややかなものだった。
「君だけなら大丈夫だと思ってたんだけどねぇ〜。まさか連れて行くとは思わなかったよ。」
猛の言葉が胸に突き刺さる。
「兇君、仕事だってわかってる?彼女を守りたいなら時には置いていく事も必要なんだよ。」
そう言うと、猛は更に目を細めて兇を見おろしてきた。
何も言い返せなかった。
猛の言う通り、今回は自分の失態であった。
誰のせいでもない。
己が甘かったが故に彼女は連れて行かれてしまったのだ。
兇は俯き唇を噛む。
そんな兇を見ていた猛はやれやれと肩を竦めると――
「まったく君って子は・・・・本当に手が焼ける子だなぁ〜。」
そう言って、兇の頭にポンと手を乗せてきた。
――温かい大きな手。
久しくされていなかった兄のその懐かしい手の温もりに兇の瞳が揺れる。
「さてと、それじゃぁ〜そろそろ彼女を取り返しに行きますか!」
いつもの笑顔に戻った猛に兇は視線を落としたまま小さく頷くのであった。
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