「ちょっと若菜本気なの〜〜!?」
「だから違うって!」
少しだけざわめく教室の中で、北斗は話し合いと称して若菜に今朝の出来事を突っ込んで聞いていた。
しかし若菜の返答は素っ気無く、二人がどうこうなったとかいう浮いた話は出てこなかった。
「ただ、暇だったから一緒に出かけないかって誘われただけよ。」
「ふ〜ん。」
「ま、まあ私も暇だったから適当に一緒にぶらついてあげたけど。」
「へぇ〜。」
「もちろん全部奢らせたわよ。」
「あはははは。」
らしいといえばらしい話に北斗は苦笑する。
「はい、それでは結果が出ましたので皆さん黒板を見てくださ〜い。」
と、教室の前の方から声が聞こえてきた。
振り返ると、教卓の前に二人の生徒が立ち黒板に何かを書き出していた。
「あ、決まったみたいね。」
若菜は黒板に書かれた文字を見上げながらそう呟く。
黒板の前に立っているのは学級委員長と書記係。
先ほどクラス会議で行った投票の集計結果を発表しているところだった。
「え〜では、配役はこのように決まりました。」
書記係が黒板に書き出す名前を順に見ていく。
そしてある所で北斗は思わず声を上げた。
「な、なにこれぇぇ〜〜!?」
思わずガタンと派手な音をあげて勢い良く立ち上がった。
そこに書かれていたのは。
眠り姫役・・・・・那々瀬 北斗
だった。
その予想外な投票結果に北斗本人が驚いた。
「え…な、なんであたしが??」
どうして?と抗議の声を上げようとした時
教室中から「ひゅ〜ひゅ〜」と冷やかすような、はやしたてる声が聞こえてきた。
驚いて見回すと、クラスの男子生徒たちがこちらを好機の目で見上げていた。
「な、なに?」
その視線に北斗はたじろぐ。
「ちょ、ちょっと北斗……」
驚く北斗を若菜が背後から呼んできた。
そして若菜が示した先を見ると……。
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
今度こそ北斗は絶叫した。
目を見開いて見る北斗の視線の先――自身の名前の書かれた左隣には真新しく書かれた白い文字。
そこには――
王子役・・・・・鈴宮 兇
と書かれていた。
「な……」
「ええ〜なんでこうなるの〜〜!?」
北斗が言うよりも先に、先程よりも大きなどよめきが沸いた。
はっとして周りを見ると、先ほどの男子生徒たちよりもはっきりとした態度で女子生徒たちの嘆き悲しむ姿が見えた。
女子生徒たちは黒板に書かれた文字を睨みながら叫びだす。
「ちょっとこれどういうこと?」
「なんで那々瀬さんが……」
「そうよ、そうよ、納得いかないわ!」
みな口々に文句を言い始めた。
やんややんやと女子生徒たちの罵声が飛び交う中、男子生徒たちは嬉しそうにニヤニヤしていた。
「ほら、やっぱり兇が王子だったろ。」
「ああ、やっぱりな〜。」
その声に抗議の声を上げていた女子生徒たちがぴくりと反応する。
「ちょっと、やっぱりあんた達何か企んでいたわね?」
「ちょっと、どういうことよ!」
先ほどまで学級委員長達を罵っていた女子生徒たちは、にやにやと笑う男子生徒たちに矛先を変えてきた。
しかし、凄みの効いた女子生徒達の抗議をものともせず、男子生徒たちは涼しい顔をしている。
「だって、なあ……。」
「ああ、兇が相手なら那々瀬しかいないかなって。」
男子生徒たちはお互い顔を見合わせながらうんうんと頷き合うと北斗を見上げてきた。
その好奇の視線に北斗は体を強張らせる。
そして男子生徒たちは北斗を見ながらにやりと笑うと・・・・。
「だって兇が王子なら、その彼女の那々瀬が相手じゃなきゃ、なぁ〜?」
全員に聞こえるように言ってきた。
その言葉に北斗はおろか、周りの女子達が反応した。
「ちょっ、何言ってるのよ!いつ那々瀬さんが兇君と……」
「え〜、俺達あの時はっきり聞いたもんなぁ〜。」
「なっ、デタラメ言わないでよ!」
「そうよ、そうよ!!」
「でもお前等、兇が王子がいいんだろう?」
「何言ってんのよ、当たり前じゃない!あんた達が王子役なんて嫌よ!」
「なら那々瀬が……」
「それはダメって言ってるでしょう!!」
喧々轟々
女子と男子の言い争いが続く中
否応にも喧嘩の中心になってしまった二人は、呆然とその騒ぎを見つめている事しかできなかった。
そして――
『王子役はぜったい兇君!』と言い切る女子達と
『王子が兇ならヒロインは那々瀬だ!』と言い張る男子達。
ある意味息の合った主張なのだが……。
悲しいかな二つの意見が交わる事は一度もなかった。
そして結局、どちらの意見も通すという学級委員長の強引な決断でこの話はまとまったのだが。
納得のいかない女子達。
思惑通りに事が運んでほくそ笑む男子達。
人知れず水面下で女子と男子の火蓋が切って落とされたのであった。
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