「・・・・この前、国からの依頼があったんだ。たぶんその件と関係があるんだと思う。」



兇は何故か一言一言、言葉を選ぶように伝えてきた。



「その依頼って?」



兇の意図がわからず首を傾げながら聞き返す。

そんな北斗に兇は更に言い辛そうに口を開いた。



「今回の依頼は・・・・”元殺人者”の除霊だったそうだよ。」



兇の言葉に北斗は固まった。



「・・・・殺人者って?」



「うん・・・・昔殺人の罪で刑務所に入っていた囚人が5年前に病死したんだけど、どうやら悪霊になってしまった様で、最近その悪霊の仕業と思われる被害が出ているらしいんだ。」



「被害って?・・・・」



「内容は・・・・聞かない方がいい。で、その悪霊の除霊に猛は行ったんだけど、結果その悪霊に返り討ちに遭ったみたいなんだ。」



そう言って俯く兇に言葉をかけられなかった。

今回の依頼は猛が適任という理由で話が回って来たのであろう。



浄霊――霊を説得し黄泉へと送る方法――を得意とする兇に対し。



除霊――霊の意思に問わず無理矢理浄化(消滅)させる方法――を得意とする猛。



もちろん断る理由も無い猛は依頼通りに悪霊と戦いあんな目に合ってしまったのだ。



――あんなに強い猛さんが?・・・・・



以前猛が悪霊と対峙した時の姿を見たことがある北斗は兇の言葉が信じられなかった。

悪霊と対峙したときのあの余裕と強さを目の当たりにした北斗はただただ驚いた。

それと同時に今回の依頼の恐ろしさを実感した・・・・。



「す、鈴宮君はもちろんこの依頼は受けないよね?」



北斗は縋るような表情で兇に尋ねた。

すると兇は徐に視線を外す。

その行動に北斗は顔色を変えて兇に詰め寄った。



「だ、だって、だって・・・・猛さんがあんなになっちゃったんだよ!?兇君にもしもの事があったら・・・・。」



「でも、誰かがやらなきゃいけないんだ・・・・。」



詰め寄る北斗に兇は苦悶の表情でそう呟くと、逃げるように去って行ってしまった。

冷たく突き放すような態度を取ってきた兇に内心動揺しながら北斗は兇の去って行った廊下を悲しそうな顔で見つめるしかなかった。







それから数日の間、兇から詳しい話を聞きだす事はできなかった。

それというのも兇がやんわりと北斗を避けるようになっていたからだった。

挨拶はしてくれるし日常会話程度なら今までとは変わらないのだが、こと猛の状態やあの依頼の件を聞こうとするとはぐらかされてしまうのだった。

いい加減北斗も不安と心配で限界だった。

今日こそは!と気合を入れて兇に話しかけようとしたその時――



「ただいま〜!」



玄関の開く音と共に暢気な声が聞こえてきた。

その声に北斗は思わず玄関へと急いだ。



――まさか?猛さんが帰ってきた?



小さな期待と共に玄関まで辿り着くとそこには――







着物に羽織を身に着けた男性が立っていた。



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