「では改めて。はじめまして、私が現当主の鈴宮(すずみや) (たもつ)です、よろしく。」



「あ、こちらこそはじめまして。居候させて頂いている那々瀬 北斗です。」



あの後、清音が用意してくれた朝食を囲みながら保と北斗が自己紹介をしていた。



「うん、相変わらず清音さんの作る料理はおいしいなぁ。」



ほかほかと湯気の立つお茶碗を片手にニコニコと笑顔を絶やさない鈴宮家当主を目の前にして北斗は緊張していた。

そんな北斗はふとある事を思い出す。



「あ、あの・・・当主って、確か猛さんだったんじゃ?」



北斗の質問に保は一瞬きょとんとした顔になったが、ややあって「ああ」と言葉を続けた。



「長男には私がいない間の代理をやってもらっていたんですよ。あいつが現当主と言っていたんですか?」



にこにこと聞いてくる保に北斗は思わず首を横に振った。

以前猛は確かに『現当主』と名乗った事はあるのだが・・・・。

何故かそれを言ってはいけないような気がして黙っておいた。



「い、いえ、私が勝手にそう思っていただけです。その・・・・すみません。」



「あはは、謝る事はありませんよ。私もずっとこちらに居ませんでしたからねぇ〜。」



にこにこと朗らかに笑う保に北斗は「はぁ」と相槌を打つしかなかった。

そんな二人の遣り取りを遮るように隣に座っていた兇が言葉を挟んできた。



「で、父さんはなんでまた家に戻ってきたの?」



探るような兇の言葉に保は一瞬呆けた後、笑顔になってこう返してきた。



「あははは、そりゃぁ〜息子達の一大事と聞いて駆けつけない親は居ないだろう?」



朗らかな笑顔と共に言われた保の答えに、何故か兇は眉間に皺を寄せて半眼になった。



「それだけじゃないだろう?」



兇は保の顔をじっと見据えるとそう言ってきた。

その言葉に保は笑顔のまま息子に向き直る。



「おや、次男君は何かお気に召さないようですねぇ。」



保はそう言うと困ったように眉根を下げた。



「貴方がそんな事で動くとは思えませんからね。」



兇は保に対して丁寧な言葉使いではあったが、どこか棘を含んだ物言いに北斗は二人を見ながらハラハラしていた。



「私も一応父親の端くれですよ。君は私が息子が怪我をして黙っているとでも思っていたのかな?」



にこにこと笑顔を張り付かせていた保は、兇の言葉に少しだけ不満そうな低い声で答えると、これみよがしに”よよよ”と着物の袖で顔を覆いながら泣き崩れた。

その姿に兇は「うっ」と一瞬怯む。

そんな兇に向かって保は更に言葉を続けた。



「私は、私は、こ〜んなにも息子達のことを思っているのに・・・・。長男の猛君が怪我したっていうから仕事も途中だったけど、それすらも放り出して飛んで来たっていうのに・・・・それなのに、それなのに・・・・次男の兇君はそんな私を疑うんだね・・・・。」



そう言いながら保は兇の顔を恨めしそうに見つめた。

こうなるともう手がつけられない。

泣き崩れる父親を兇はジト目で見ながら胸中で呟いていた。



この嘘泣きク○親父が!!



兇は、はっきり言って父が苦手だった。

聡明で堅実な鈴宮家当主と謳われている保。

確かに聡明で堅実・・・・ではあるのだが・・・・。

この掴み所のない飄々とした態度や口調が兇はどうしても苦手だった。

今はここにはいない、よく似た相手を思い出しながら兇は小さく舌打ちした。

今はまだ一人だから何とか我慢できるが、これが二人揃った日には・・・・



はっきり言ってメンドクサイ!



そう胸中で呟きながら兇は眉間に深い皺を寄せながら心底嫌そうに嘆息するのだった。







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