「ほんっと〜〜〜に何もなかったです!」
あれから数分後。
北斗は自室で真っ赤な顔をしながら兇と対峙していた。
お互い正座しながら向かい合っている。
岩の爆弾発言のおかげで、パニックになった兇に詰め寄られて大変だった。
『変質者って? やられたって? どういうこと!?』
と取り乱した兇は北斗に詰め寄り挙句の果てには怪我は無いか?と心配までしだし、菊と同じような奇行に走り出そうとした。
いきなり菊と同じような事をされ慌てた北斗は恥ずかしさのあまり・・・・
ばっちーーーん
気がついたら兇をひっぱたいてしまっていた。
「それと・・・・ごめんね。」
真っ赤に手形の着いた兇の左頬を申し訳なさそうに、ちらちら見ながら北斗は肩を竦めた。
「あはは、大丈夫だよ・・・・俺の方こそ取り乱しちゃってごめん。」
兇もばつが悪いのか困ったような顔をしながら謝ってきた。
――あああああ、私ってばなんでこんな時に出ちゃうかな〜・・・・。
そんな兇を申し訳ない気持ちで見ながら内心呟いていた。
最近悪霊騒ぎやらでしおらしくなっていたとはいえ、元来男勝りな北斗。
あまりの恥ずかしさと混乱でつい手が出てしまった。
――ううううう、兇君に嫌われたらどうしよう・・・・。
内心で盛大に落ち込む北斗をよそに兇はまだ納得していないのか、探るようにじっと北斗を見つめていた。
そしてすっと真顔になるとこう言ってきた。
「その・・・・変質者、だっけ?逃げた後、追っかけては来なかった?」
神妙な面持ちで訊ねてきた兇に、北斗は顔を上げる。
「えっと・・・・逃げるのに必死だったから・・・・。」
北斗は記憶を巡視した後申し訳なさそうにそう答えた。
逃げるのに必死だった。
もう怖くて怖くて逃げることしか考えていなかった。
そこでふと、先ほど兇が訊ねた言葉の意味を理解して北斗の顔色が青くなった。
――あ、あのまま家までついて来られていたら・・・・。
ありえなくはない答えに、さあっと血の気が引いた。
逃げることばかりを考えていてそこまで頭が回らなかった。
己の軽率さに北斗は顔を曇らせる。
「大丈夫。」
見上げると兇と目が合った。
「大丈夫、家の周りには不審な奴はいなかったから。」
そう言って兇はやさしく微笑んだ。
その言葉にほっと安堵する北斗。
ようやく落ち着いた彼女を確認すると、兇は北斗に気をつけるように言うと部屋を出た。
自室へ向かう廊下の途中で兇は考え込んでいた。
あの後すぐさま家の周りを確認させたが不審な人物は見つからなかった。
しかし拭いきれないこの不安を北斗に気づかれないよう得意の笑顔で誤魔化したものの・・・・。
焦燥が兇の胸を襲っていた。
振り払えないこの不安はいつもなら素直に受け入れられるのだが。
勘違いであって欲しい、とつい考えてしまう。
こと北斗に関しては平静さを失ってしまう
常に平穏無事であって欲しいと願ってしまうのだ。
お陰で判断が鈍ってしまう。
こんな事ではいけないと兇は頭を振った。
――もしかしたらがある!
兇は迷いを払った表情で顔を上げると、最善を尽くすべく一歩前へと歩き出すのであった。
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