ガラーー!!



荒々しく開け放たれた扉に、のんびりと雑誌を読んでいた部屋の主は驚いた。

肩で息をしながらこちらを睨んでくる騒々しい訪問客に困ったように肩を竦めながら見上げた。



「やあ♪」



「やあじゃない!」



お決まりの悪魔の笑顔で挨拶をしてみれば、これまたお決まりの返事が帰ってきたことに部屋の主はぷっと吹き出してしまった。



「笑ってる場合じゃないだろう!!」



つかつかとこちらに来たかと思ったら噛み付かんばかりの勢いで抗議してきた。



「僕一応、怪我人なんだけど?」



そう言って困ったように肩を竦めて相手を見遣れば、米神に青筋を浮かび上がらせて睨んできた。



「そんな事言ってる場合じゃないだろ!」



そう凄みながら目の下に影まで作って言ってきた弟はいつもよりも迫力がある。



これはやり過ぎたと内心で舌を出していた猛は改めて兇へと向き直った。



「北斗ちゃんのことだろう?」



「!!!」



涼しい顔でさらっと言う兄の言葉に兇が反応する。



「へえ、視に行ったんだ〜。で、どうするの?」



すっと珍しく真顔になって聞いてきた兄に兇は一瞬言葉が詰まる。



「やるに決まってるだろう!」



「覚悟はできてるの?」



怒った様な口調で返せば猛の静かな声が返ってきた。

しんと静まり返る室内。



「ああ」



しかしあまり時間を置かず兇の返答が返ってきた。



「最悪の結果になったとしても?」



「!?」



小さな溜息が聞こえた後にそんな質問が返ってきた。



「最悪の結果になんて」



「無いとは言い切れない」



「!!!!」



言い返す兇の言葉に猛の冷たい言葉がぴしゃりと投げかけられた。

押し黙る兇。

猛はそんな兇を静かに見上げていたが、小さく溜息をひとつ吐くと視線を落として言ってきた。



「兇、今回の依頼は今までのとは訳が違う。悪霊の中でも最悪なケースだ、しかも狙われているのは・・・・彼女だ。」



猛と兇の間に沈黙が落ちた。



「でもこのまま放っておいたら彼女は確実に殺されてしまう!」



ややあって兇が搾り出すような声で吐き捨てるように言ってきた。



今回の悪霊のターゲットは北斗だった。

しかし今までのような生易しいものでは無かった。

相手は殺人鬼で悪霊になった今も獲物を求めてさ迷っているような奴だ。

しかも猛を返り討ちにできる程の力を持っている。

分が悪いのは明白だった。

しかし・・・・

だからといって見逃すわけにはいかない。



大切な・・・・彼女の命がかかっているのだ。



兇の顔を暫く見ていた猛は突然諦めたように肩を竦めてくすりと笑ってきた。



「誰も彼女を見捨てるなんて言ってないだろう。今回の件に関しては既に応援も呼んでおいたから安心しろ。」



猛はそう言うと兇の頭をぽんぱんと撫でてきた。



「応援?」



兇が訝しげに首を傾げる。



「そ、もうこっちに戻ってきてるんだろう?アイツが。」



「なっ、親父を呼んだのは兄貴だったのか!?」



猛の言葉に一瞬にして脱力する。

心底嫌そうな声音で吐き出すとじろりと兄を睨んできた。



「ははは、そう嫌がるなって。アレでも我が家一の退魔師なんだから。」



それに俺達の親なんだぞ。

弟の反応にくすくすと笑いを堪えながら兄が言う。



「そんなことわかってるよ。」



珍しく子供のような顔でぶすっと呟いてきた弟に猛は堪えきれないとばかりに腹を抱えて笑い転げるのだった。







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