その次の日の朝――
「きゃあああああああああああああ!!」
北斗の部屋から、たまぎる乙女の悲鳴が屋敷中に響いてきた。
ずだだだだだだだだだだ
スパーーーーーーン
北斗の悲鳴の次の瞬間、廊下を物凄い勢いで走ってくる音と、障子を勢い良く開け放たれる音が響いた。
「なっにやってんだお前はーーーーーーー!!」
続いて兇の怒声が響いてきた。
そこには――
真っ赤になって布団を掻き抱く北斗と、北斗の顔に至近距離まで近づいている猛の姿があった。
「お前はーーーーーー!!」
性懲りも無くまたか!と怒鳴りながら猛の襟首を掴んで引き離す。
兄弟喧嘩寸前の二人の耳に北斗のか細い声が届いた。
「あの・・・まだ・・・・」
北斗を見るとまだ涙目でこちらに助けを求める視線があった。
恥ずかしそうに顔を真っ赤にする北斗の向こう側
ふと、布団の中に薄い色素の頭を発見した。
「!!!!!!!」
思わず布団を剥がすとそこには自分達に良く似た顔がもう一つ。
「お、お、お、親父〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
やあ、と照れたようにはにかむ珍客に兇は目を白黒させながら絶叫した。
「お前ら、あほか!」
朝餉の席で兇が烈火のごとく怒っていた。
正座させられている二人は頭に大きなたんこぶができている。
あれから兇の鉄拳を喰らわされた父と兄は情けなくも一番年下の兇から説教されていた。
「いや〜久しぶりに北斗ちゃんを見たらつい。」
「ついじゃない!」
頭を掻き掻きそう言い訳をした兄に弟はぴしゃりと言い放つ。
「未来のお嫁さんの様子を見にちょっと忍び込んだら朝まで眠ってしまって・・・・」
ガシャン
息子に習って言い訳を言う夫の目の前に朝食のお膳が乱暴に置かれた。
一同しーんと静かになる。
見ればお膳を運んできた清音が立っていた。
「あ、あの・・・・清音、さん?」
怒ってます?と冷や汗をだらだらと流しながら問いかける夫に奥様は知らん顔。
「みなさん冷めないうちにどうぞ。」
笑顔でそう言うと台所へと戻っていってしまった。
相当怒ってる!!
久しぶりに見た妻の静かな怒りに夫とその息子達はごきゅりと固唾を呑んだ。
「どどど、どうしよう〜」
「知るか!」
「自分で何とかしてくれ。」
おろおろする情けない父親に息子達は呆れた顔で嘆息する。
保はこれはまずいと思ったのか慌てて立ち上がると台所へと走っていった。
「まったくこんな時にお前らなにやってるんだよ。」
父親の愚行を見送ったあと、兇はやれやれと言いながら愚痴を零した。
「え〜だって〜、北斗ちゃんが悪い夢を見てうなされてないか心配だったしさ〜。」
そんな弟に猛は不満とばかりに口を尖らせながら抗議してきた。
「大きなお世話だ!だいたい布団の中に入ること無いだろうが!」
とまた烈火のごとく怒り出した兇に隣に座っていた北斗が助け舟を出した。
「あ、あの・・・・最近は変な夢見なかったから大丈夫ですよ。その、心配かけてごめんなさい。」
喧嘩の原因は自分にあると思った北斗は申し訳なさそうに頭を下げてきた。
そんな北斗に猛と兇は慌てて
「な、なに言ってるの?悪いのはこいつなんだから那々瀬さんは気にしなくていいんだよ。」
「ちょっ兇君、それ酷い!あ、でも北斗ちゃんは悪くないよ僕も布団に入れて幸せだっ――」
ごいん
猛が言い終わらないうちに二度目の鉄拳の音が響いた。
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